「リリア、実は君に話したいことがあるんだ」
ユーリの真剣な声に、リリアは作業着のまま診療所のベッドの脇に座り直した。彼の顔色はまだ青白いが、目はしっかりとリリアを見据えている。
「何ですか? 改まって」
リリアが問いかけると、ユーリは一度だけ深呼吸をし、口を開いた。
「俺は、元宮廷薬師なんだ」
その言葉に、リリアは息を呑んだ。宮廷薬師と言えば、王都で最高峰の薬学知識を持つ者だけがなれる職だ。なぜそんな人物が、こんな辺境の村で薬師をしているのか。
「驚いたか? 無理もない。だが、本当なんだ。そして、俺がここにいるのは、君の追放に関係している」
ユーリの言葉に、リリアの心臓が大きく跳ねた。彼が何を知っているのか。リリアはユーリの次の言葉を待った。
ユーリはゆっくりと語り始めた。
「俺は宮廷で、クラウディア聖女長の不正を目撃した。彼女は、政敵を排除するために、無実の聖女たちに濡れ衣を着せて追放していたんだ」
リリアは驚きのあまり、言葉を失った。クラウディアが、自分以外にも同じことをしていたのか。
「君もその犠牲者の一人だ。君に魔道具を盗んだという罪を着せたのは、クラウディアの指示だった」
ユーリはそう言って、懐から一通の手紙を取り出した。それは古びた羊皮紙で、クラウディアの署名と教会の印章が押されている。
「これは、クラウディアが君を追放するよう命じた手紙の写しだ。俺はこれを手に、君を助けるためにここへ来た」
リリアは手紙を受け取り、震える手でそれを開いた。そこには、リリアを「危険な存在」と断じ、辺境へ追放するよう命じる内容が記されていた。確かに、クラウディアの筆跡だ。
「なぜ、あなたがこれを?」
リリアの問いに、ユーリは苦しそうな表情を浮かべた。
「俺はクラウディアの不正を告発しようとしたが、逆に追放された。そして、君の冤罪を知ったのは、その後のことだ。君と同じように、無実の罪で苦しむ人を放っておけなかった」
ユーリの言葉に、リリアは胸が熱くなった。彼は自分のために、危険を冒してここへ来てくれたのだ。
「でも、なぜ今まで黙っていたんですか?」
「君に真実を知られるのが怖かったんだ。君が俺を信用してくれているのに、それを壊してしまうのが」
ユーリは俯いた。リリアは彼の手を握り、優しく微笑んだ。
「ユーリ、ありがとう。あなたが教えてくれて、嬉しい」
リリアの言葉に、ユーリは顔を上げた。その目には、安堵の色が浮かんでいた。
「これで、君の冤罪を晴らせるかもしれない。この手紙があれば、クラウディアの陰謀を暴ける」
ユーリは力強く言った。リリアも頷いた。
「でも、まずは村の復興を優先しましょう。この手紙は、私たちの切り札です」
リリアは手紙を大切にしまい、ユーリの手を握り返した。
二人はしばらくの間、手を握り合ったまま沈黙していた。リリアの心は、ユーリへの信頼と感謝で満たされていた。
「ユーリ、あなたがいてくれて本当に良かった」
リリアがそう言うと、ユーリは優しく微笑んだ。
「俺もだよ。君と出会えて、俺の人生は変わった」
ユーリはリリアの手を離し、真剣な表情で言った。
「これからも、君と一緒にこの村を守っていきたい。そして、いつか必ず君の冤罪を晴らそう」
リリアはその言葉に、深く頷いた。
「はい、一緒に頑張りましょう」
二人の間に、強い絆が生まれた。それは、単なる雇用関係でも、恋愛感情だけでもない、互いの過去を共有し、未来を共に歩んでいくという決意だった。
リリアはユーリの手を握り直し、言った。
「ユーリ、あなたの過去を教えてくれてありがとう。私は、あなたを信じる」
ユーリは目を細め、リリアの手を握り返した。
「ありがとう、リリア。俺も君を信じている」
その瞬間、二人の間には言葉にできない温かい空気が流れていた。
その時、診療所の外から村人の叫び声が聞こえてきた。
「井戸の水が変だ!」
リリアとユーリは顔を見合わせた。井戸の水が変だと? リリアは窓の外を見ると、村人が井戸の周りに集まっている。
「何があったんだ?」
ユーリが立ち上がろうとすると、リリアは彼を制した。
「私が行ってきます。あなたはまだ療養中ですから」
リリアはそう言って、診療所を飛び出した。
村の井戸から異臭がし始め、ユーリが水質の異変に気づく。






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