ユーリの問い詰めに、リリアは言葉を詰まらせた。彼の鋭い視線が、まるで心の奥底まで見透かすかのようだ。リリアは、自分が追放された聖女であることを打ち明けるべきか、それとも隠すべきか、一瞬のうちに考えた。しかし、この村で生きていくためには、正直になるしかないと覚悟を決めた。
「……私は、リリアと言います。元・聖女です。教会の陰謀で濡れ衣を着せられ、追放されました」
リリアは、そう言って静かに頭を下げた。ユーリは、驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を引き締めた。
「聖女? それはまた、とんでもない身分だな。だが、今のお前はただの流れ者だ。この村に何の用だ?」
ユーリの言葉は、冷たかった。リリアは、それでもめげずに訴えた。
「私は、ここで暮らしたいんです。自分の知識を活かして、村の役に立ちたい。薬草のことも、少しなら分かります」
リリアがそう言うと、ユーリはしばらく考え込んだ。そして、ため息をついて言った。
「……分かった。まずは、診療所に来い。話はそれからだ」
ユーリは、そう言って歩き出した。リリアは、慌ててその後を追った。
診療所に着くと、ユーリはリリアに椅子を勧めた。部屋の中は、薬草の香りが漂い、棚にはびんや乾燥した植物が並んでいる。ユーリは、向かいに座ると、真剣な表情で切り出した。
「この村は、もうすぐ滅びるかもしれない。若い者は皆、都会へ出て行き、残っているのは年寄りばかりだ。畑は荒れ、薬草も採れなくなってきている。このままでは、村人は病気になっても治すこともできない」
ユーリの言葉に、リリアは驚いた。確かに、村は静かで、活気がない。だが、ここまで深刻だとは思わなかった。
「何か、私にできることはありませんか?」
リリアが尋ねると、ユーリは少し迷った後、口を開いた。
「……お前が本当に薬草の知識があるなら、手伝ってほしい。だが、村人はよそ者を簡単に信用しない。特に、聖女なんて名乗る奴はな」
ユーリの言葉に、リリアは胸が痛んだ。だが、それも当然だ。自分は、教会に利用されていただけの存在だ。村人から見れば、ただの厄介者かもしれない。
「それでも、私はここで頑張りたいです。少しずつでも、信頼を得られるように努力します」
リリアがそう言うと、ユーリは少しだけ表情を緩めた。
「……分かった。まずは、仮の住居を用意する。それから、仕事として薬草採取を頼みたい。ただし、報酬は安いぞ」
リリアは、嬉しくなって頷いた。
「ありがとうございます! 精一杯頑張ります!」
ユーリは、リリアを診療所の裏手に連れて行った。そこには、小さな薬草畑があった。しかし、その薬草は、どれも枯れかけていた。
「ここが、俺の薬草畑だ。だが、最近なぜか枯れてしまうんだ。水もやっているし、土も悪くないはずなんだが……」
ユーリは、困ったように頭を掻いた。リリアは、しゃがみ込んで土を触ってみた。
「……この土、少しおかしいですね。何か、薬草の成長を阻害するものが混ざっているような気がします」
リリアがそう言うと、ユーリは驚いた顔をした。
「そんなことが分かるのか?」
「はい。孤児院で、土の状態を見る方法を教わりました。少し調べてみてもいいですか?」
リリアが尋ねると、ユーリは頷いた。リリアは、土を手に取って、匂いを嗅いだり、色を確かめたりした。そして、あることに気がついた。
「……この土、何か変な匂いがします。もしかしたら、何かが混入しているのかもしれません」
リリアの言葉に、ユーリは眉をひそめた。
「混入? そんなことがあり得るのか?」
「はい。例えば、魔獣の血や、特定の薬草を腐らせたものなどが混ざると、土が汚染されることがあります。もしかしたら、それが原因かもしれません」
リリアは、そう説明した。ユーリは、考え込むように顎に手を当てた。
「……確かに、最近魔獣が出るようになった。もしかしたら、その影響かもしれないな」
ユーリは、そう言ってため息をついた。リリアは、何とかしたいと思った。
「私に、何かお手伝いできることがあれば、言ってください」
リリアがそう言うと、ユーリは少しだけ微笑んだ。
「ああ、頼む。まずは、この薬草畑を何とかしたい。お前の知識を貸してくれ」
リリアは、力強く頷いた。
リリアは、ユーリと一緒に薬草畑の土を調べ始めた。ユーリは、リリアの知識に感心しながらも、まだ完全には信頼していないようだった。しかし、リリアはそんなことは気にせず、自分のできることを精一杯やろうと決意した。
「この土、やはり何かが混ざっていますね。少し掘り返してみましょう」
リリアは、スコップで土を掘り返した。すると、土の中から、黒い塊が出てきた。
「これは……何ですか?」
リリアが尋ねると、ユーリはその塊を手に取って、まじまじと見つめた。
「……これは、魔獣の死骸の一部だ。それも、かなり古いものだな。どうしてこんなものが土の中に?」
ユーリは、不思議そうに首を傾げた。リリアは、その黒い塊を見て、あることに気がついた。
「この魔獣の死骸、もしかしたら、この土を汚染しているのかもしれません。取り除けば、薬草もまた育つようになるかもしれません」
リリアがそう言うと、ユーリは感心したように頷いた。
「なるほど。お前の言う通りかもしれない。さっそく、これを取り除こう」
ユーリは、リリアと一緒に、土の中から魔獣の死骸を取り除いた。すると、土の匂いが少し変わったような気がした。
「これで、少しは良くなるかもしれないな」
ユーリは、そう言ってリリアを見た。その目は、さっきよりも少しだけ柔らかくなっていた。
「……ありがとう。お前のおかげで、助かった」
ユーリの言葉に、リリアは嬉しくなった。
「いいえ、私も勉強になりました。これからも、よろしくお願いします」
リリアがそう言うと、ユーリは微笑んだ。
「ああ、こちらこそ。さて、今日はもう遅いし、明日から本格的に始めよう。住居は、診療所の隣の空き家を使うといい」
ユーリは、そう言ってリリアを案内した。リリアは、新しい生活に期待を膨らませた。
その夜、リリアは空き家で一人、これからのことを考えていた。村を復興させるために、できることはたくさんある。まずは、薬草畑を復活させること。そして、村人たちの信頼を得ること。
「頑張ろう」
リリアは、そう呟いて、眠りについた。
翌朝、リリアは早速、薬草畑の様子を見に行った。昨日、魔獣の死骸を取り除いたおかげか、土の状態は少し良くなっているように感じた。しかし、まだ完全に回復したわけではない。
「もう少し、何かできることはないかな……」
リリアは、薬草畑の隅々まで観察した。すると、畑の端の方で、何かが光っているのに気がついた。
リリアが診療所の裏手で、不自然に枯れた薬草畑を見つける。






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