翌朝、リリアは診療所のベッドで目を覚ました。体はまだ重いが、昨夜の出来事が夢でないことは、腕に残る淡い光の痕跡が物語っていた。ユーリが差し入れてくれた薬草茶を一口含むと、彼が診療所の戸口に立っていた。
「調子はどうだ?」
「ええ、少し楽になりました。それより、村の人たちは……」
リリアが言いかけると、ユーリは静かに首を振った。
「集会所で待っている。お前の話を聞きたいそうだ。無理なら断るが、お前の力を見た以上、黙っては通れないだろう」
リリアは深く息を吸い、立ち上がった。彼女の心臓は高鳴っていたが、逃げるわけにはいかなかった。ユーリが支えるように隣を歩き、二人は集会所へと向かった。
集会所の扉を開けると、村人たちの視線が一斉にリリアへと注がれた。不安と期待が入り混じった表情。村長が前に立ち、重々しく口を開いた。
「リリア殿、昨夜の光は確かに見た。お前が聖女だったというのは本当か?」
リリアは頷き、追放された経緯を簡潔に話した。教会の陰謀、濡れ衣、そして自分が無実であること。しかし、話が終わると、村人の一人が声を上げた。
「聖女様がそんなことをするはずがない! お前こそが偽物で、村に災いをもたらすつもりじゃないのか?」
その言葉に、数人が同調するようにざわめいた。リリアは唇を噛みしめた。
「黙れ!」
ユーリが一歩前に出て、鋭い声を上げた。彼の眼差しは村人たちを射抜くように鋭く、その場の空気が一瞬で張り詰めた。
「リリアは俺が保証する。彼女はお前たちを害するために来たわけじゃない。むしろ、この村を救うために来たんだ」
「だが、教会が黙ってないぞ!」
反対派の一人が叫ぶと、ユーリは冷たく返した。
「教会が何をしようと、俺が守る。それに、彼女の力を見ただろう? あれは呪いを浄化する力だ。お前たちの薬草畑を蝕んでいる呪いも、彼女なら解けるかもしれない」
その言葉に、村人たちの間に動揺が広がった。薬草畑の異変は村の存亡に関わる問題であり、誰もが頭を悩ませていたのだ。
「本当に解けるのか?」
村長が問いかけると、リリアは一歩前に出た。
「やってみせます。もし私の力が偽物なら、お好きにしてください」
リリアは集会所を出て、村の外れにある薬草畑へと向かった。村人たちが後を追う。畑に着くと、枯れ果てた薬草が無残に横たわっていた。リリアはその中心に立ち、両手をかざした。
「――浄化の光よ」
彼女の手から淡い光が溢れ出し、地面に広がっていく。光が触れた土は潤いを取り戻し、枯れた薬草がみるみるうちに青々と蘇っていく。村人たちは息を呑み、その光景を見つめた。
しかし、光が強くなるにつれ、リリアの体に異変が起きた。彼女の魔力が暴走し始めたのだ。光は制御を失い、周囲に激しく飛び散る。
「危ない!」
ユーリが叫び、リリアに駆け寄ろうとした。しかし、リリアは必死に耐え、光を収束させようと試みた。彼女の額には汗が浮かび、顔は苦痛に歪む。
「リリア、無理するな!」
ユーリの声が聞こえるが、リリアは止まらなかった。彼女はこの村に受け入れられるために、この力を見せる必要があった。
「――お願い、収まって!」
リリアが強く念じると、光は徐々に落ち着きを取り戻し、やがて静かに消えていった。畑は完全に蘇り、薬草は瑞々しい葉を揺らしていた。
リリアはその場に崩れそうになったが、ユーリが素早く支えた。村人たちは一瞬の静寂の後、大きな歓声を上げた。
「すごい!」
「畑が生き返った!」
村人たちはリリアの回復魔法を目の当たりにし、その力を認めざるを得なかった。しかし、反対派の者たちはまだ疑いの目を向けていた。
「確かに畑は蘇ったが、教会の報復が怖い」
「そうだ、聖女の力が暴走したら、村が危ないぞ」
その声に、リリアは顔を曇らせた。しかし、村長が手を挙げて静めるように言った。
「リリア殿、お前の力は確かに本物だ。だが、村として受け入れるかどうかは、皆の意見を聞かねばならん。少し時間をくれ」
リリアは頷き、ユーリに支えられながら診療所へと戻った。
診療所に戻ると、ユーリはリリアをベッドに横たえ、冷たい布を額に当てた。
「無茶をするな。魔力が暴走したら、どうするつもりだったんだ」
「でも、あのままじゃ信じてもらえなかったから……」
リリアが弱々しく言うと、ユーリはため息をついた。
「お前の気持ちは分かるが、俺がいるだろう。俺に任せればよかったんだ」
「ユーリさんに頼ってばかりじゃ、ダメだと思って……」
リリアの言葉に、ユーリは優しく髪を撫でた。
「お前はもう一人じゃない。俺がいるし、村の人たちも少しずつ分かってくれるさ」
その言葉に、リリアの目に涙が浮かんだ。彼女はこれまでずっと一人で戦ってきた。誰かを信じることが怖かった。しかし、ユーリの温もりが、その心を溶かしていくようだった。
「ありがとうございます、ユーリさん」
リリアが微笑むと、ユーリも優しく笑い返した。
「さて、村人たちがどう出るかだな。反対派もいるが、畑が蘇ったことで、お前の力の価値は分かったはずだ」
「でも、教会のことが心配です。もしまた追跡者が来たら……」
リリアが不安そうに言うと、ユーリは真剣な表情で彼女を見つめた。
「その時は、俺が守る。もうお前を一人で戦わせたりしない」
その言葉に、リリアは心強さを感じた。彼女はユーリの手を握り返し、静かに頷いた。
しばらくすると、村長が診療所を訪ねてきた。
「リリア殿、村人たちと話し合った結果、お前を村に受け入れることに決めた。ただし、条件がある。今後、魔力を使う時は、必ずユーリの立ち会いのもとで行うこと。そして、教会に知られないよう、お前の存在は秘密にしておく」
リリアはその条件を受け入れ、村長に深く頭を下げた。
「ありがとうございます。必ずお役に立ちます」
村長は満足そうに頷き、診療所を去っていった。リリアは安堵の息をつき、ユーリと顔を見合わせた。
「これで、やっとここにいられるんですね」
「ああ。だが、油断はできない。教会はお前を追っている。いつまた動き出すか分からない」
ユーリの言葉に、リリアは再び緊張が走った。しかし、今はユーリがそばにいる。そのことが何よりの支えだった。
その夜、診療所でリリアが休んでいると、ユーリが真剣な表情で切り出した。
「教会が本格的に動き出す前に、証拠を公表する準備をしよう」
リリアはその言葉に驚き、ユーリの顔を見つめた。
集会の後、ユーリがリリアに「教会が本格的に動き出す前に、証拠を公表する準備をしよう」と提案する。






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