あれから数日、リリアはユーリの言葉を胸に、村人たちと共に歩む決意を固めていた。診療所でユーリの回復を待つ間、彼女は村の現状を詳しく調べ、畑の土壌改良と灌漑設備の修復が急務だと痛感していた。
「ユーリさん、少しお時間よろしいですか?」
リリアが診療所を訪れると、ユーリはベッドに半身を起こし、穏やかな笑顔を浮かべた。
「ああ、リリア。どうしたんだ?」
「畑のことで、相談したいことがあります。村人たちと協力して、土壌を改善したいのですが、どう進めれば良いか…」
ユーリはリリアの話を聞き、頷いた。
「まずは村人たちの意見を聞くことだ。彼らはこの土地をよく知っている。君の知識と彼らの経験を合わせれば、きっと良い方法が見つかる」
リリアはその助言に感謝し、早速村人たちを集めることにした。
翌日の午後、村の広場に村人たちが集まった。リリアは自分の考えを説明する。
「皆さん、畑の土壌を改善し、灌漑設備を修復したいと思います。私の知識でお手伝いできます」
しかし、若者の一人が反発した。
「教会のやり方に従うべきだ。あなたの新しい方法は信用できない」
他の若者たちも同調する。リリアは一瞬戸惑ったが、ユーリの言葉を思い出し、彼らの意見に耳を傾けることにした。
「そうですね。教会のやり方も大切です。ですが、この土地に合った方法を一緒に考えてみませんか?」
リリアの誠実な態度に、若者たちは少しずつ心を開いていく。
リリアは若者たちと共に畑に向かった。彼らはまだ半信半疑の様子で、リリアの指示に従いながらも、不満げな表情を浮かべている。
「まず、この土の状態を調べましょう」
リリアは土を手に取り、匂いを嗅ぎ、色を確認する。
「酸性が強すぎます。石灰を混ぜて中和する必要があります」
若者の一人、トーマスが口を挟む。
「石灰?そんなものを使ったら作物が育たなくなるんじゃないか?」
「大丈夫です。適量を混ぜれば、逆に栄養が吸収されやすくなります」
リリアは丁寧に説明するが、トーマスは納得しない。
「教会のやり方では、そんなことはしなかった。やはりあなたの方法は怪しい」
他の若者たちも「そうだそうだ」と同調する。リリアは焦りを感じながらも、冷静に対応しようとする。
「では、まず小さな区画で試してみましょう。結果を見てから判断してください」
リリアの提案に、若者たちは渋々ながらも承諾した。彼らはリリアと共に石灰をまき、土を耕し始めた。
作業が進むにつれ、リリアは若者たちの手際の良さに感心する。彼らはこの土地のことをよく知っており、力も強い。しかし、その一方で、新しいことへの抵抗感が強いことも理解した。
「皆さん、本当に力強いですね。この調子で頑張りましょう」
リリアが声をかけると、若者たちは少し照れくさそうにしながらも、作業を続けた。
しかし、その時、トーマスが突然立ち止まり、リリアに詰め寄った。
「あなたは聖女だったんでしょう?なぜ教会を追い出されたんだ?」
リリアは一瞬言葉を詰まらせる。彼女の過去は村では知られていない。
「…それは、言えません」
「やっぱり何かやらかしたんだろう?」
トーマスの言葉に、他の若者たちもざわつき始める。リリアは心臓が高鳴るのを感じた。
「違います。私は無実です」
「無実なら、なぜ追放されたんだ?」
リリアは唇を噛みしめた。真実を話すべきか、迷った。しかし、今はまだ話す時ではない。
「すみません、今は話せません。でも、私はこの村のために力を尽くしたいと思っています」
リリアの真剣な眼差しに、トーマスは何かを感じ取ったのか、それ以上追及しなかった。
「…わかった。信じるわけじゃないが、しばらくは協力してやる」
リリアは安堵の息をついた。しかし、まだ若者たちの信頼を得たわけではない。作業を続けながら、彼女はどうやって信頼を築くかを考えていた。
作業が進むにつれ、リリアと若者たちの間にも少しずつ会話が生まれるようになった。トーマスも最初の警戒心を解き、リリアの知識に興味を持ち始める。
「この草は何に使うんだ?」
「これはハーブティーにすると、疲労回復に効くんですよ」
リリアが説明すると、トーマスは感心したように頷いた。
「へえ、すごいな。教会ではこんなこと教えてくれなかった」
「私も薬師のユーリさんに教わったんです」
リリアはユーリの名前を出すと、若者たちの表情が少し和らいだ。ユーリは村で信頼されている薬師なのだ。
「ユーリさんも元気になったのか?」
「まだ療養中ですが、少しずつ回復しています」
「そうか、良かった。ユーリさんにはいつもお世話になってるからな」
若者たちの口からユーリへの信頼が感じられ、リリアは嬉しくなった。
やがて、日が傾き始めた頃、作業は一区切りついた。リリアは皆に声をかける。
「今日はありがとうございました。おかげで、かなり進みました」
「いや、こっちこそ。リリアさんの知識はすごいな」
トーマスが素直に褒めてくれた。リリアは驚きつつも、嬉しさで胸がいっぱいになった。
「また明日も続けましょう。今度は灌漑設備の修復も始めたいです」
「ああ、任せろ!」
若者たちは笑顔で応えてくれた。リリアは彼らとの距離が縮まったことを実感し、心が温かくなった。
診療所に戻ると、ユーリが窓の外を見つめていた。リリアが近づくと、ユーリは穏やかな笑顔を向ける。
「どうだった?」
「はい、皆さんと協力して、畑の土壌改良が進みました。灌漑設備の修復も始められそうです」
リリアが報告すると、ユーリは安心したように頷いた。
「良かった。君が村人たちと信頼を築けたようで、安心したよ」
「ユーリさんの助言のおかげです。ありがとうございます」
リリアが頭を下げると、ユーリは優しく微笑んだ。
「そんなに畏まらなくていい。これからも一緒に村を良くしていこう」
その言葉に、リリアの心は温かいもので満たされた。
その夜、リリアは診療所でユーリと共に夕食をとっていた。村の復興が順調に進み、リリアは充実感に浸っていた。しかし、ユーリの表情はどこか硬い。
「リリア、話があるんだ」
ユーリが真剣な眼差しでリリアを見つめる。リリアは箸を置き、彼の言葉を待った。
ユーリがリリアに「実は君に話したいことがある」と真剣な表情で切り出す。






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