リリアは森の中を進んでいた。村から聞こえていた怒声が遠ざかり、周囲は静寂に包まれている。足元の落ち葉を踏む音だけが響く。彼女は唇を噛みしめ、拳を握った。
「ユーリさん、村人たち……どうか無事で」
祈るように呟き、再び歩き出した。しかし、その足音は、村の方向から近づいてくる複数の足音によって遮られた。
リリアは立ち止まり、息を潜めた。木の影に隠れて、音の主を窺う。黒いローブを身にまとった男たちが、こちらに向かってくる。先頭の男が鋭い目つきで辺りを見回している。
「くそっ、森は広い。どこにいるんだ」
「魔力を失った女だ。そう遠くには行っていないはず」
男たちはリリアのすぐ近くまで来ていた。リリアは心臓の鼓動が速くなるのを感じた。このまま見つかれば、捕まるのは確実だ。
「どうする……?」
リリアは必死に考えた。戻れば村人が危険に晒される。進めば追手に捕まる。だが、ここで諦めるわけにはいかない。
「師匠の隠れ里まで、あと少し」
リリアは意を決して、森の奥へと足を進めた。
リリアは森の中を全力で走った。枝が頬をかすめ、足が木の根に絡まりそうになる。しかし、彼女は止まらなかった。
「待て! 聖女リリア!」
後ろから男たちの声が聞こえる。リリアは振り返らずに走り続けた。しかし、前方からも足音が聞こえてくる。
「囲まれた!」
リリアは立ち止まり、周囲を見渡した。男たちが四方からゆっくりと近づいてくる。彼らは手に剣を持ち、鋭い目つきでリリアを睨んでいた。
「観念しろ。お前の魔力は封印されている。抵抗するだけ無駄だ」
先頭の男が冷笑を浮かべる。リリアは唇を噛みしめ、後退した。しかし、背中は木にぶつかり、逃げ場を失った。
「なぜ……なぜここまでするの?」
リリアは震える声で問いかけた。男たちは笑いながら答える。
「聖女長の命令だ。お前を始末しろと」
「クラウディア……!」
リリアは拳を握りしめた。怒りと悔しさで涙が滲む。だが、恐怖に負けるわけにはいかない。
「私は……もう逃げない!」
リリアは両手を前に突き出した。その瞬間、彼女の体が淡い光に包まれた。
「な、なんだ?」
男たちが驚きの声を上げる。リリアの体から溢れ出る光は、徐々に強くなっていく。彼女の額に刻まれた封印の紋様が、激しく輝き始めた。
「この光は……まさか!」
男たちが後退する。リリアは自分の体に力が漲るのを感じた。封印が解けていく。
「私の……魔力が戻ってきた!」
リリアは叫んだ。光が弾け、周囲の木々を揺らす。男たちは目を覆い、怯えたように後ずさる。
「くそっ、何が起きている!」
リリアは手をかざし、回復魔法を放った。光の奔流が男たちを襲い、彼らの武器を弾き飛ばした。
「うわあっ!」
男たちは地面に転がり、武器を落とした。リリアはその隙に、森の奥へと走り出した。
「待て!」
男たちは立ち上がり、追いかけようとするが、リリアの放った光がまだ残っていて、目がくらんで追いつけない。
リリアは走り続けた。息が切れ、足が重い。だが、彼女は止まらなかった。
「師匠の隠れ里は……もうすぐ」
やがて、木々の隙間から小さな家が見えてきた。リリアは安堵の息を吐き、家の扉を叩いた。
「師匠! 私です! リリアです!」
扉が開き、年老いた女性が現れた。彼女はリリアの姿を見て、目を見開いた。
「リリア……無事だったか」
「はい。師匠、証拠の写しをいただけませんか?」
師匠は頷き、家の中から一枚の紙を取り出した。
「これが、クラウディアの陰謀を証明する写しだ。だが、本当に使うのか?」
「はい。村人たちを守るために、必要です」
リリアは写しを受け取り、丁寧に胸の内側にしまった。
「ありがとうございます、師匠」
「気をつけてな」
リリアは頷き、村へと戻る道を急いだ。
村に戻ると、広場には男たちと村人が集められていた。男たちは村人を人質に取り、リリアを探しているようだ。
「リリアはどこだ! 出てこなければ、この村人を殺すぞ!」
男が村人の首に刃を当てる。村人たちは恐怖で震えていた。
「やめて!」
リリアは広場に飛び出した。男たちはリリアの姿を見て、にやりと笑う。
「ようやく現れたか。聖女リリア」
「村人を解放しなさい!」
「ふん、お前が捕まれば、解放してやる」
男たちがリリアに迫る。しかし、リリアは動じなかった。
「もう、あなたたちに負ける気はない」
リリアは手をかざし、回復魔法を放った。光が男たちを包み、彼らの武器を無力化する。
「な、なんだ!」
男たちは驚き、後退した。その隙に、リリアは人質にされていた子供に駆け寄った。
「大丈夫? 怪我をしているわね」
リリアは子供の腕の傷に手をかざし、回復魔法を唱えた。傷がみるみるうちに塞がっていく。
「わあ……痛くなくなった!」
子供が目を輝かせる。村人たちはリリアの力を見て、驚きと感謝の表情を浮かべた。
「リリア様、ありがとうございます!」
「すごい! 本当に聖女様なんだ!」
村人たちがリリアに感謝の言葉をかける。リリアは微笑み、皆を安心させた。
「もう大丈夫です。私が守ります」
その時、診療所からユーリが現れた。彼は肩の傷を押さえながら、リリアの姿を見て安堵の表情を浮かべた。
「リリア……無事だったか」
「ユーリさん! 無理をしないでください!」
リリアはユーリに駆け寄り、肩を支えた。ユーリはリリアの顔を見つめ、微笑んだ。
「ああ、君が無事でよかった」
「ユーリさん……私、やりました。証拠の写しを手に入れました」
リリアは胸の内側から写しを取り出し、ユーリに見せた。ユーリはそれを見て、目を見開いた。
「これは……クラウディアの陰謀の証拠か」
「はい。これで、冤罪を晴らせます」
ユーリはリリアの手を握り、真剣な目で言った。
「よくやった。リリア、君は強い」
リリアはその言葉に、胸が熱くなった。
「ユーリさん……ありがとうございます」
二人は見つめ合い、微笑んだ。村人たちも、二人の絆を温かく見守っていた。
その時、村の外れから、複数の足音が聞こえてきた。リリアは顔を上げ、警戒した。
「まだ来るの?」
ユーリも身構える。村人たちは再び不安な表情を浮かべた。
クラウディアの手先が村に近づく。






💬 Reader Comments
Comments are coming soon. Join the discussion about 追放された聖女は辺境でスローライフを満喫する~最強の回復魔法で村を復興して、イケメン薬師に愛されちゃいました~!