📖 追放された聖女は隣国で公爵様と契約結婚して幸せになります
呪いの真実・代償
試練の地から戻って数日、リリアーナは公爵邸の自室で静かに横になっていた。あの日、石門をくぐり、試練を乗り越えたことで、彼女の聖女の力は一部復活した。しかし、その代償は大きく、今も体は重く、熱が引かない。レオンハルトの呪いを一時的に抑えることはできたが、完全に解くにはほど遠い。彼の苦しむ姿を思うと、胸が締め付けられる。
「早く、完全に呪いを解く方法を見つけなければ」
リリアーナはベッドの上で身を起こし、枕元に置かれた古い書物に手を伸ばした。それは公爵邸の書庫から借りてきた、解呪に関する文献だ。しかし、ページをめくっても、彼の呪いに直接効く記述は見つからない。
「禁忌の儀式……先代公爵が関与したという、その詳細が鍵になるのかしら」
彼女はため息をつき、再び横になった。窓の外では夕日が沈みかけ、部屋はオレンジ色に染まっていた。
その時、部屋のドアがノックされた。
「リリアーナ、入ってもいいか?」
レオンハルトの声だ。リリアーナは慌てて体を起こし、声を整える。
「はい、どうぞ」
ドアが開き、レオンハルトが入ってくる。彼は手に盆を持ち、その上には湯気の立つスープが置かれていた。
「無理をしていると聞いた。少しでも食べたほうがいい」
彼はベッドの脇に盆を置き、リリアーナの顔を覗き込む。その瞳には心配の色が浮かんでいた。
「ありがとうございます。でも、まだ調べ物が……」
リリアーナが再び書物に手を伸ばそうとすると、レオンハルトはそれを制した。
「今は休め。お前の体が大事だ」
「ですが、あなたの呪いを早く解かないと……」
「それは急いでどうにかなるものではないだろう。それに、お前が倒れてしまっては意味がない」
レオンハルトはスープの皿を手に取り、スプーンですくってリリアーナの口元に運んだ。
「ほら、口を開けろ」
リリアーナは驚きつつも、素直に口を開けてスープを受け入れた。温かい味が体に染み渡る。
「……美味しいです」
「それは良かった」
レオンハルトは少しだけ微笑み、再びスープをすくう。その仕草は慣れていないが、丁寧だった。リリアーナは彼の思いがけない優しさに、心臓が高鳴るのを感じた。
「公爵様が、こんなことをしてくださるなんて」
「お前が俺のために無理をしたのだろう。それくらいのことはする」
彼は淡々と言うが、その言葉には確かな温かさがあった。リリアーナはスープを飲み終え、少しだけ体力が戻った気がした。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「そうか。なら、少しだけ本を読むことを許す。ただし、無理はするなよ」
レオンハルトはそう言って、書物をリリアーナの手元に置いた。彼はそのまま部屋の隅の椅子に腰を下ろし、彼女が読書をする様子を見守るつもりらしい。
リリアーナは再び文献をめくり始めたが、やはり彼の呪いに関する直接的な記述は見つからない。彼女はふと、ある記述に目を留めた。
「『聖女の血は呪いを浄化するが、代償として聖女の命を削る』……これ、本当なの?」
リリアーナは呟き、顔を上げた。レオンハルトはその言葉を聞き、眉をひそめる。
「そんなことが書いてあるのか?」
「ええ。でも、これが正しいかどうかは分かりません。もしかしたら、別の方法があるかもしれない」
リリアーナは必死に笑顔を作ったが、レオンハルトはその言葉を真に受けたようには見えなかった。彼は立ち上がり、リリアーナのそばに歩み寄る。
「リリアーナ、お前が無理をしてまで俺を救う必要はない。俺の呪いは、もともと俺が背負うべきものだ」
「そんなこと言わないでください。私はあなたを救いたいんです。あなたがいてくれたから、私はここにいられる」
リリアーナは強い意志を込めて言った。レオンハルトはその言葉に、何かを堪えるように唇を噛んだ。
「……すまない」
彼は小さく謝り、リリアーナの頭を優しく撫でた。その手の温かさに、リリアーナは目を閉じる。
「約束します。必ず、あなたを救います」
リリアーナはそう誓った。
その夜、リリアーナは再び熱を出してしまった。試練の反動がまだ体に残っているのだろう。彼女はベッドでうなされ、うなされる。レオンハルトはそんな彼女のそばに付き添い、冷たい布で額を冷やしてくれた。
「うぅ……レオンハルト様……」
リリアーナがうわごとで彼の名を呼ぶと、レオンハルトはそっと彼女の手を握った。
「ここにいる。大丈夫だ」
彼は低く優しい声で囁く。リリアーナはその声を聞き、安心したように表情を緩めた。
しばらくして、リリアーナの熱は少しずつ下がり始めた。彼女はうっすらと目を開け、レオンハルトの姿を認める。
「……レオンハルト様、ずっとここに?」
「ああ。お前が目を覚ますまで、こうしているつもりだ」
リリアーナはその言葉に、胸が熱くなった。彼は普段は冷たい態度を取ることが多いが、こうして心配してくれる。
「ありがとうございます。もう大丈夫ですから、お部屋に戻ってください」
「いや、もう少しこうしていてもいいか?」
レオンハルトは珍しく遠慮がちに尋ねた。リリアーナは頷き、彼の手を握り返す。
「ええ、もちろんです」
二人はしばらく無言で手を繋いでいた。窓の外では月が輝き、静かな夜が続く。
「リリアーナ」
レオンハルトが突然、彼女の名を呼んだ。
「何ですか?」
「……いや、何でもない。もう休め」
彼は言いかけてやめた。リリアーナは不思議に思いつつも、目を閉じた。彼の手の温もりを感じながら、彼女は再び眠りについた。
翌朝、リリアーナはすっかり回復していた。彼女が起き上がると、レオンハルトはすでに仕事に出る準備をしていた。
「体調はどうだ?」
「はい、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「ならいい。今日は無理をするなよ」
レオンハルトはそう言って、部屋を出て行こうとした。しかし、ドアの前で立ち止まり、振り返る。
「……リリアーナ、お前のことは、もっと知りたいと思っている」
彼はそう言い残し、去っていった。リリアーナはその言葉に、心臓が大きく跳ねるのを感じた。
レオンハルトの言葉がリリアーナの胸に残る。彼が自分の過去を知りたいと言った意味を考えながら、彼女は今日も書庫へ向かう準備を始める。
リリアーナが回復する中、レオンハルトは彼女の過去についてもっと知りたいと思い始める。






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