📖 追放された聖女は隣国で公爵様と契約結婚して幸せになります
追放と契約・最初の手がかり
リリアーナは、書庫で見つけた先代公爵の日記を手に、レオンハルトの執務室へ向かった。昨夜の感謝の言葉が、まだ胸に残っている。彼は冷たい態度を取りながらも、確かに一歩踏み出してくれた。その想いに応えたいと思った。
執務室の扉をノックすると、すぐに「入れ」と短い返事が返ってきた。中に入ると、レオンハルトは窓辺に立ち、外を見つめていた。彼の背中は、どこか孤独で、リリアーナは声をかけるのをためらった。
「公爵様、お時間よろしいでしょうか」
レオンハルトが振り返る。その瞳は、いつものように冷たかったが、わずかに興味の色が浮かんでいた。
「何か見つけたのか」
リリアーナは、日記を机の上に置いた。
「はい。先代公爵の日記に、禁忌の儀式の詳細が記されていました。ただ、重要な部分が切り取られていて……」
レオンハルトは、日記を手に取り、ページをめくった。その表情は、次第に険しくなっていく。
「……これは、父の筆跡だ。確かに、儀式のことが書かれている」
彼は、しばらく黙って読み進めていたが、やがて日記を閉じた。
「だが、肝心の解呪の方法が欠けている。これでは、何の手がかりにもならない」
リリアーナは、首を振った。
「いいえ、手がかりはあります。この日記には、儀式が行われた場所が記されています。そこに行けば、何か見つかるかもしれません」
レオンハルトは、鋭い目でリリアーナを見た。
「……場所だと? どこだ」
「公爵邸の地下、かつての祈祷堂です」
その言葉に、レオンハルトの表情が一瞬揺らいだ。
「地下の祈祷堂だと? あそこは、もう何年も封鎖されている。父が亡くなってから、誰も立ち入っていない」
レオンハルトは、日記を机に置き、腕を組んだ。
「なぜ、そんな場所に儀式の痕跡が?」
「日記には、先代公爵が『あの場所で儀式を行った』と記されています。もしかすると、解呪の手がかりが残っているかもしれません」
リリアーナは、日記の該当箇所を指さした。だが、レオンハルトは、その手を払いのけるように言った。
「そんなもの、信じる価値があるのか? 父は、禁忌の儀式に手を染めた。その結果が、この呪いだ。今さら、何を期待しろというんだ」
「ですが、公爵様の呪いを解くためには、儀式の全容を知る必要があります。切り取られた部分に、解呪の方法が記されていたかもしれません」
リリアーナは、一歩前に進んだ。
「私は、お役に立ちたいのです。あなたの呪いを、何とかしたい」
レオンハルトは、しばらくリリアーナを見つめていたが、やがて冷たい笑みを浮かべた。
「お前が? なぜだ。お前は、ただの契約妻だ。私の呪いを解く義務も、権利もない」
「確かに、私はただの契約妻です。ですが、あなたが私を追放から救ってくれた。その恩に報いたいのです」
リリアーナの言葉に、レオンハルトは一瞬、言葉を失った。だが、すぐに表情を硬くする。
「恩だと? 私は、お前を利用しているだけだ。聖女の力が、呪いを緩和するかもしれないと期待してな」
「それでも、私はあなたを助けたいと思っています」
リリアーナは、まっすぐにレオンハルトを見つめた。その瞳に、迷いはなかった。
「お前は、本当に……変わった女だな」
レオンハルトは、ため息をついた。
「わかった。地下の祈祷堂を調べる。ただし、私も同行する。一人で行かせるわけにはいかない」
「ありがとうございます」
リリアーナが微笑むと、レオンハルトはそっと目をそらした。
「だが、もし何も見つからなかったら、その時は……」
「見つかります。必ず」
リリアーナは、力強く言い切った。
二人は、地下へ続く階段を下りた。古い石造りの壁は、ひんやりと冷たく、足音が静かに響く。リリアーナは、ランタンを手に、慎重に足を進めた。
「本当に、ここに何かあるのか?」
レオンハルトが、後ろから低い声で尋ねた。
「日記には、確かにそう書かれていました」
リリアーナは、手にした日記を開いた。そこには、簡略化された地図が描かれていた。
「この先に、祈祷堂があるはずです」
しばらく歩くと、重厚な木の扉が現れた。鍵はかかっておらず、レオンハルトが押し開けると、きしむ音が響いた。
中は、薄暗く、ほこりが舞っていた。かつては祈りの場だったであろう空間には、祭壇が残されていたが、今は荒れ果てていた。
「何か、手がかりはないか?」
レオンハルトが、祭壇の周りを調べ始める。リリアーナも、床や壁を注意深く見て回った。
その時、リリアーナは、祭壇の裏に、古い書物が隠されているのを見つけた。
「公爵様、これを……」
リリアーナが、書物を取り出すと、レオンハルトが近づいてきた。それは、先代公爵の日記とは別の、古い革装の本だった。
「……これは、儀式の詳細を記した書物だ」
レオンハルトは、ページをめくりながら、目を見開いた。
「ここには、解呪の方法も記されている」
リリアーナは、その言葉に胸をなで下ろした。
「よかった……これで、公爵様の呪いを解けるかもしれません」
レオンハルトは、しばらく書物を見つめていたが、やがて顔を上げた。
「……リリアーナ。お前のおかげだ」
その言葉は、いつもの冷たい口調ではなく、どこか柔らかかった。リリアーナは、少し驚いたが、すぐに微笑んだ。
「いいえ、公爵様が協力してくださったからです」
レオンハルトは、小さく笑った。それは、初めて見せる、優しい笑顔だった。
「さあ、戻ろう。この書物を詳しく調べる必要がある」
二人は、書物を手に、地下を後にした。
書庫へ戻るため、二人は廊下を歩いていた。リリアーナは、手にした書物の重みを感じながら、解呪の方法を早く知りたいと思っていた。
二人が書庫を出ると、廊下の影が不自然に動き、誰かが潜んでいる気配を感じる。






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