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📖 追放された聖女は隣国で公爵様と契約結婚して幸せになります

追放と契約・代償

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冷たい雨が、教会の石段を叩いていた。リリアーナは、追放の宣告を受けた後も、その場に立ち尽くしていた。肩に掛けられた粗末な外套は、すでに濡れそぼり、肌に張り付いている。数時間前まで、彼女はこの国の聖女だった。しかし、今はただの、居場所を失った娘だ。 「リリアーナ様、お迎えが参りました」 声に振り返ると、見知らぬ騎士が一人、馬を降りて立っていた。漆黒の鎧に、深紅のマント。その胸には、見慣れぬ紋章が刻まれている。 「グレイスラント公爵、レオンハルト様の命により、参上いたしました」 騎士は恭しく一礼すると、一通の封書を差し出した。リリアーナは震える手でそれを受け取り、封を切る。中には、簡潔な文言が記されていた。 『貴女の力を必要としている。我が領地に来るがよい。ただし、条件がある。我と契約結婚を結ぶことだ』 リリアーナは、その文面を二度、三度と読み返した。契約結婚? なぜ、隣国の公爵が、自分にそんな申し出を? 「……これは、どういうことですか?」 騎士は、感情の読めない声で答えた。 「詳しい話は、公爵様が直接なさいます。お乗りください。馬車を用意しております」 雨は、まだ止まない。リリアーナは、濡れた髪をかき上げ、騎士の指す方を見た。確かに、一台の馬車が控えている。 彼女には、選ぶ余地などなかった。教会は、彼女に一切の金銭も与えず、追放した。行く当てもない。このまま野垂れ死ぬか、それとも、見知らぬ公爵の申し出を受けるか。 リリアーナは、濡れたスカートの裾を握りしめ、馬車へと歩き出した。 馬車は、雨の中を走り続けた。窓の外は、暗闇に包まれ、何も見えない。リリアーナは、膝の上で手を組み、揺れる車内でこれからのことを考えた。 グレイスラント公爵レオンハルト。彼の噂は、いくつか聞いたことがある。若くして公爵位を継いだ、冷徹な領主。領地は豊かだが、彼自身は社交界にほとんど姿を見せず、謎に包まれている。 なぜ、そんな人物が、自分を必要とするのか。 馬車は、やがて大きな門をくぐり、石畳の庭を進んで、玄関前に止まった。騎士が扉を開け、リリアーナを促す。 中に入ると、広大なホールが広がっていた。燭台の火が、薄暗い光を投げかけている。床は磨き上げられ、自分の姿が映り込むほどだ。 「お待ちしておりました、元聖女様」 低く、響く声。リリアーナは、はっとして顔を上げた。階段の上に、一人の男が立っていた。黒髪を後ろに撫でつけ、鋭い青い瞳。漆黒のコートに、銀のボタン。彼こそが、レオンハルト公爵だった。 「お会いできて光栄です、公爵様」 リリアーナは、ぎこちなく礼を取った。レオンハルトは、階段をゆっくりと降りてくる。その足音は、静かに響いた。 「手短に言う。貴女には、我が領地に蔓延る呪いを浄化してもらう。だが、その力は教会に封印されていると聞く。ならば、まずはその封印を解く方法を探す必要がある。その間、貴女には我が妻として、この屋敷に滞在してもらう」 「妻、ですか……」 「形式的なものだ。愛も情も必要ない。貴女は、ただの道具だ」 その言葉は、リリアーナの胸に突き刺さった。だが、反論する気にはなれなかった。確かに、自分はもう聖女ではない。ただの、役立たずの娘だ。 「……承知しました」 リリアーナは、うつむきながら答えた。レオンハルトは、満足そうに頷くと、執事を呼び寄せた。 「部屋を用意しろ。それと、契約書を」 執事が、すぐに書類を持ってくる。レオンハルトは、テーブルの上にそれを広げ、ペンを差し出した。 「ここに署名を」 リリアーナは、ペンを握りしめた。この一筆で、自分の運命が決まる。だが、他に道はない。彼女は、震える手で、署名をした。 「これで、貴女は私の妻だ。ただし、あくまで契約上のものだ。私の領地のため、そして貴女の力のために、互いに利用し合う関係だ」 レオンハルトは、冷たい目でリリアーナを見下ろした。リリアーナは、唇を噛みしめ、頷くしかなかった。 「案内しろ」 レオンハルトが指示すると、執事がリリアーナを客間へと案内した。 客間は、簡素だが清潔だった。ベッドには、柔らかそうなシーツが敷かれ、窓には分厚いカーテンが掛かっている。リリアーナは、濡れた外套を脱ぎ、椅子に座った。 しばらくすると、メイドが温かいスープとパンを持ってきてくれた。リリアーナは、空腹だったことに気づき、スープを一口飲む。体の芯から温まるような味がした。 「……ありがとう」 メイドは、微笑んで部屋を出て行った。リリアーナは、スープを飲み干し、パンをかじる。ようやく、一息つける場所を得た。 だが、心は晴れない。レオンハルトの冷たい言葉が、耳に残っている。 「道具か……」 リリアーナは、苦笑した。確かに、自分は教会でも、ただの道具だった。聖女としての力がある間は、大切に扱われたが、力が封印されると、用済みとして追放された。 今度は、別の公爵が、同じように自分を道具として使おうとしている。 だが、それでもいい。ここにいれば、生き延びられる。そして、いつか自分の力を取り戻せば、自由になれるかもしれない。 リリアーナは、窓の外を見た。雨は、まだ降り続いている。だが、さっきまでの寒さは、少し和らいだ気がした。 部屋に、ノックの音が響いた。 「入れ」 扉が開き、レオンハルトが立っていた。彼は、何かを手に持っている。 「これを渡しておく。何かあれば、これで私を呼べ」 それは、小さな銀の鈴だった。リリアーナは、それを受け取り、手のひらで転がした。 「……ありがとうございます」 レオンハルトは、それだけ言うと、部屋を出て行こうとした。その時、彼はドアノブに手をかけた。 瞬間、リリアーナは、異変に気づいた。 レオンハルトの手がドアノブに触れた瞬間、彼の指先から、黒い靄が立ち上った。そして、金属のドアノブが、まるで錆びたかのように、腐食し始めた。 レオンハルトが部屋を出る際、うっかりドアノブに触れた瞬間、ドアノブが腐食し始める。
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