📖 追放された聖女は隣国で公爵様と契約結婚して幸せになります
追放と契約・決戦前夜
刺客の襲撃から一夜が明け、公爵邸の一室には静寂が戻っていた。リリアーナは窓辺に立ち、夜明け前の暗い空を見つめていた。昨夜の戦いで、彼女はレオンハルトと共に刺客を撃退したが、その代償は大きかった。彼の呪いがさらに進行し、手の腐食が目に見えて広がっている。リリアーナはその手を思い出し、胸が締め付けられる思いだった。
「公爵様、お休みになられましたか?」
侍女の問いかけに、リリアーナは静かに首を振った。
「ええ、少しだけ。でも、もう目が覚めてしまって」
彼女は侍女に朝の支度を頼み、着替えを済ませると、レオンハルトの私室へ向かった。昨夜の戦いの後、彼は疲労で倒れ、医師の診察を受けたが、呪いの進行を止めることはできなかった。リリアーナは彼の状態を確認しなければならなかった。
ノックをすると、中から低い声が返ってきた。
「入れ」
リリアーナが扉を開けると、レオンハルトはベッドに腰かけ、包帯を巻いた手を眺めていた。彼の顔色は優れず、目の下にはくまが浮かんでいる。
「おはようございます、公爵様。お加減はいかがですか?」
「ああ、問題ない。お前こそ、怪我はなかったか」
「はい、おかげさまで。ですが、公爵様のお手が……」
リリアーナは彼の手に視線を落とし、言葉を濁した。包帯の隙間から、黒ずんだ皮膚が見えている。
リリアーナはレオンハルトの手に触れようとしたが、彼は手を引っ込めた。
「触るな。お前に移るかもしれない」
「大丈夫です。私の浄化の力で、少しでも和らぐかもしれません」
リリアーナは彼の手をそっと取り、包帯を解いた。そこには、腐食が広がった皮膚があった。彼女は深く息を吸い込み、手のひらをかざして浄化の力を注ぐ。しかし、光が消えると、腐食はほとんど変わっていなかった。
「やはり、完全な力がなければ……」
リリアーナは唇を噛んだ。彼女の力はまだ封印されており、この程度の浄化では焼け石に水だった。
「無理をするな。これは俺の呪いだ。お前が背負うことではない」
レオンハルトは手を引っ込め、包帯を巻き直した。リリアーナは彼の言葉に反論しようとしたが、その前に彼が口を開いた。
「試練の地へは、俺も同行する」
「公爵様、それは無理です。お体がもちません」
「俺はまだ戦える。お前を一人で行かせるわけにはいかない」
「ですが、昨夜の戦いでお疲れでしょう。ここは私が一人で……」
「リリアーナ」
レオンハルトは強い口調で彼女の名を呼んだ。
「お前を危険にさらすわけにはいかない。俺が守る」
「でも、公爵様こそ危険です。呪いが進行しているのに、無理をなさらないでください」
「俺のことは心配するな。それよりも、試練の準備を急ぐべきだ。時間がない」
レオンハルトは立ち上がり、装備を整え始めた。リリアーナは彼の背中を見つめ、どう説得すればいいか悩んだ。彼は頑固で、一度決めたら曲げない。しかし、彼の体調を考えると、同行させるのは危険だった。
「公爵様、お願いです。ここは私に任せてください」
リリアーナは彼の袖を掴んだ。レオンハルトは振り返り、彼女の目をじっと見つめた。
「お前は、俺が呪いで死ぬのを待っているのか?」
「そんなことはありません!」
「ならば、行かせろ。俺はお前を守るためにいるんだ」
彼の言葉に、リリアーナは言葉を失った。彼は本気で自分を守ろうとしている。その想いが伝わり、胸が熱くなった。
「……分かりました。ですが、無理はしないでください。もし倒れたら、私が支えます」
「ああ、頼む」
レオンハルトは微かに口元を緩めた。リリアーナはその表情を見て、少し安心した。二人は互いに支え合いながら、試練の地へ向かう決意を固めた。
リリアーナはレオンハルトの手当てをしながら、昨夜の戦いを思い出していた。刺客たちはセシリアの差し金で、二人を殺すために送られてきた。しかし、レオンハルトはリリアーナを守るために剣を振るい、彼女も浄化の力で援護した。二人は息を合わせて戦い、何とか撃退することができた。
「公爵様、昨夜はありがとうございました。あなたがいなければ、私は今頃……」
「礼は不要だ。お前を守るのは当然のことだ」
レオンハルトは淡々と言ったが、その目は優しかった。リリアーナは彼の言葉に心が温かくなるのを感じた。
「でも、あなたの呪いが進行してしまった。私の力が足りず、申し訳ありません」
「気にするな。これは俺の宿命だ。お前のせいではない」
「それでも、私はあなたを救いたい。聖女の試練を乗り越えて、必ず呪いを解きます」
リリアーナは彼の手を握りしめた。レオンハルトはその手をそっと握り返した。
「ああ、信じている」
その言葉に、リリアーナの目頭が熱くなった。彼は自分のことを信頼してくれている。その信頼に応えるためにも、試練を乗り越えなければならない。
「出発の準備を整えましょう。夜明けとともに、試練の地へ向かいます」
「ああ、そうしよう」
二人は立ち上がり、荷物をまとめ始めた。リリアーナは護符と地図を確認し、レオンハルトは剣の手入れをした。互いに無言のまま、しかし確かな絆で結ばれていた。
「公爵様、準備ができました」
「俺もだ。行こう」
二人が玄関ホールへ向かおうとしたその時、騎士の一人が慌てて駆け込んできた。
騎士は息を切らしながら、一通の書状を差し出した。
「公爵様、至急の知らせです!」
レオンハルトは書状を受け取り、目を通した。その表情が一瞬で硬くなる。
「どうしましたか?」
リリアーナが尋ねると、レオンハルトは書状を握りしめ、低い声で言った。
「……教会が王族を動かし、お前の逮捕状が発行された」
出発の準備を整える中、セシリアが王族を動かし、リリアーナの逮捕状が発行されたとの急報が入る。






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