クラウディアの逃亡と脅迫の後、リリアとアルフレッドは公爵領へ戻るが、領地は魔物の襲撃で荒廃し、領民が恐怖に陥っている。
馬車が公爵領の境界を越えた瞬間、異変に気づいた。空は鉛色に曇り、遠くから轟音が響く。村々からは黒煙が上がり、逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえる。
「これは……何が起こったんだ?」
アルフレッドが馬車の窓から外を見つめ、顔を強張らせた。リリアも窓に近づき、荒れ果てた光景に息を呑む。
「魔物の襲撃です。数日前から突然、領地のあちこちで魔物が現れるようになりました」
護衛の騎士が馬を寄せ、悲痛な声で報告した。
「領民たちは避難していますが、被害は甚大です。特に東の村は壊滅状態で、多くの負傷者が出ています」
リリアは胸が締め付けられる思いだった。自分たちが王都で審問を受けている間に、領地がこんなことになっていたなんて。
「すぐにでも向かわなければ」
アルフレッドが馬車を降りようとするのを、リリアは手を伸ばして止めた。
「公爵様、あなたはまだ体が……。私が行きます」
「リリア、君にだけは無理をさせられない。俺も戦う」
アルフレッドの目は決意に満ちていた。リリアはその強さに心を打たれながらも、彼の呪いのことを思うと心配でならなかった。
「では、共に。まずは負傷者の治療を優先しましょう」
二人は馬車を降り、荒れ果てた村へと足を踏み入れた。
村の広場には、負傷した領民が横たわり、泣き声が絶えない。リリアはすぐに治療を始めた。手をかざすと、淡い光が傷を癒していく。しかし、魔物の攻撃による傷は深く、聖女の力でも完全に癒すには時間がかかる。
「お願いします、聖女様。私の夫を助けてください」
老婆が縋りつく。リリアは頷き、必死に治癒の力を注いだ。だが、その時、遠くから地響きが聞こえ、黒い影が迫ってくるのが見えた。
「また魔物だ!」
騎士たちが剣を構える。リリアは治療の手を止め、立ち上がった。
「私も戦います」
「リリア、君は治療に専念してくれ。戦いは俺たちに任せろ」
アルフレッドが前に出るが、リリアは首を振った。
「魔物は私の力を吸収する特性を持っています。普通の攻撃では倒せません。私が浄化の力で対抗します」
リリアは両手を掲げ、聖なる光を放った。光は魔物に命中し、一瞬怯ませる。しかし、魔物は光を吸収し、逆に力を増してしまう。
「くっ……やはり吸収される」
リリアは歯を食いしばった。何度も光を放つが、魔物はどんどん強くなる。周りの騎士たちも苦戦し、次々と倒れていく。
「リリア、無理をするな!」
アルフレッドが駆け寄り、リリアを庇う。しかし、魔物の一撃がアルフレッドを襲い、彼は地面に倒れた。
「公爵様!」
リリアは叫び、アルフレッドの元に駆け寄った。彼は胸を押さえ、苦しそうに息をしている。呪いの痛みが悪化しているようだ。
「大丈夫……続けてくれ」
アルフレッドは立ち上がろうとするが、ふらついてしまう。リリアは彼を支え、決意を固めた。
「私が何とかします。あなたは下がっていてください」
リリアは再び魔物に向き合った。力の制御が不安定で、過度に使うと体調を崩すことはわかっている。しかし、今はやるしかない。
「聖なる光よ、我が祈りに応えよ!」
リリアは全身から光を放った。しかし、魔物はその光を吸収し、さらに巨大化してしまう。
「そんな……!」
リリアは膝をつき、息を切らした。体力が限界に近づいている。
「リリア様、もうおやめください!」
領民たちが叫ぶ。リリアはそれでも立ち上がり、再び光を放とうとした。
その時、アルフレッドがゆっくりと立ち上がり、リリアの前に立った。
「リリア、俺の剣を使え。俺の血には呪いが流れているが、その力で魔物に対抗できるかもしれない」
アルフレッドは自分の手を切り、剣に血を塗った。すると、剣が黒い光を放ち始めた。
「公爵様、そんなことをしたら……」
「構わない。俺の命は君のためにある」
アルフレッドは魔物に向かって斬りかかった。黒い光を纏った剣は、魔物の体を切り裂いた。魔物は苦しみながらも、まだ倒れない。
「今だ、リリア!」
リリアはその隙を見逃さず、最後の力を振り絞って浄化の光を放った。光は魔物の傷口から浸透し、内部から浄化していく。魔物は悲鳴を上げ、やがて消滅した。
「やった……倒せた……」
リリアはその場に崩れ落ちた。アルフレッドも剣を支えに、何とか立っている。
魔物を撃退した後、リリアとアルフレッドは互いに疲れ果てていた。リリアは地面に座り込み、荒い息を整える。アルフレッドも隣に座り、彼女の手を握った。
「リリア、よくやってくれた。君のおかげで領民を守れた」
アルフレッドの声は優しく、リリアの心に染みる。リリアは顔を上げ、彼を見つめた。
「公爵様こそ、無理をなさらないでください。あなたの呪いが悪化してしまいます」
リリアは彼の手を握り返し、心配そうに言った。アルフレッドは微笑み、彼女の髪をそっと撫でた。
「君のためなら、どんな無理もするさ。それに、君と共に戦えたことで、呪いの痛みも忘れられた」
リリアは目を潤ませた。彼の言葉が心に響く。
「私もです。あなたと一緒なら、どんな魔物にも立ち向かえます」
二人はしばらくそのまま見つめ合っていた。周りでは領民たちが安堵の涙を流し、互いに抱き合っている。リリアはその光景を見て、自分が守るべきものを見つけた気がした。
「さあ、まだ負傷者がたくさんいる。治療を続けましょう」
リリアは立ち上がり、アルフレッドに手を差し伸べた。アルフレッドはその手を取り、立ち上がる。
「ああ、共に」
二人は再び治療に取り掛かった。リリアは疲労を押して、一人また一人と癒していく。アルフレッドは彼女の傍らで、怪我人の手当てを手伝った。
「リリア様、ありがとうございます」
「聖女様がいなければ、私たちは死んでいました」
領民たちの感謝の言葉が次々と聞こえる。リリアは微笑みながら、それに応えた。
「私こそ、皆さんと出会えて幸せです」
その時、アルフレッドがリリアの肩に手を置いた。
「リリア、君はもう一人じゃない。俺がいる」
リリアは彼の言葉に、心が温かくなるのを感じた。彼の存在が、自分を強くしてくれる。
「はい、あなたがいてくれるから、私は頑張れます」
二人の間には、確かな絆が生まれていた。
魔物の撃退後、リリアはふと違和感を覚えた。魔物の残した痕跡から、魔力の残滓を感じ取る。それは、どこかで見覚えのある魔力だった。
撃退後、リリアは魔物がクラウディアの魔力で操られていることを感知する。






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