📖 追放された聖女、呪われた公爵と契約結婚して最幸のスローライフを手に入れる
契約結婚の始まり・心の境界線
公開治療の失敗から数日後、リリアは公爵邸の自室に閉じこもっていた。あの日、自分の力が暴走し、領民の老人を苦しめてしまった光景が頭から離れない。窓の外では、領民たちの噂話が聞こえてくる。
「聖女様は偽物らしい」「公爵様がかばってるけど、本当に大丈夫なのか?」
リリアはカーテンを閉め、ベッドにうずくまった。自分は何もできない。聖女の力があるのに、制御できずに人を傷つけてしまう。教会に見捨てられたのも無理はない。
そこに、ノックの音が響いた。
「リリア、入ってもいいか?」
アルフレッドの声だ。リリアは慌てて涙を拭い、ドアを開けた。
「公爵様……すみません、情けない姿を見せてしまって」
アルフレッドは優しく微笑んだ。
「気にするな。あの日のことは、君のせいではない。力の制御は誰にでも時間がかかるものだ」
彼はリリアの手を取った。
「訓練場で特訓をしよう。私が付き合う」
リリアは驚いた。公爵自らが指導してくれるというのか。
「でも、お忙しいのでは……」
「領地のことは執事に任せてある。君の力が安定すれば、領民も救える。私の呪いも、もしかしたら解けるかもしれない」
アルフレッドの言葉に、リリアの心に希望が灯った。彼は自分を信じてくれている。それならば、自分も応えたい。
「はい、お願いします」
リリアはうなずき、アルフレッドと共に訓練場へ向かった。
公爵邸の訓練場は、石畳の広間で、剣や的が並んでいた。リリアは中央に立ち、深呼吸をした。アルフレッドは数歩離れた場所から、静かに見守っている。
「まずは、感情を落ち着けることだ。聖女の力は心と深く結びついている。焦りや恐怖は、力の暴走を招く」
アルフレッドの声は落ち着いていた。リリアは目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整えた。しかし、心の中ではあの日の光景が蘇る。老人の苦しむ顔、領民たちの悲鳴、使者の嘲笑。
「うっ……」
手のひらに力が集まり、不安定な光が漏れ出した。リリアは慌てて手を握りしめた。
「リリア、大丈夫だ。私を見て」
アルフレッドが近づき、彼女の肩に手を置いた。その温かさに、リリアは少しだけ落ち着きを取り戻した。
「すみません、また失敗しました」
「失敗ではない。練習だ。もう一度やってみよう」
リリアは再び手をかざした。今度は、両親のことを思い出した。幼い頃、母が優しく微笑んでくれたこと。父が力の使い方を教えてくれたこと。しかし、その記憶はすぐに教会での孤独な日々に塗り替えられた。
「私には……無理です」
リリアの声が震えた。手のひらの光が激しく揺らめき、周囲の空気が歪む。アルフレッドは彼女の手を強く握った。
「リリア、私も同じだ。私の呪いも、感情に左右される。怒りや悲しみが強まると、呪いが暴走する。だが、君がいるから、私は自分を制御できる」
リリアは顔を上げ、アルフレッドを見つめた。彼の瞳は真剣だった。
「私は……公爵様の支えになれていますか?」
「ああ、なっている。君が隣にいるだけで、心が強くなる」
その言葉に、リリアの心の氷が溶けていくようだった。しかし、同時に、自分が弱さを見せてしまったことが恥ずかしくもあった。
「私は、もっと強くなりたいです。公爵様の役に立ちたい」
「ならば、まずは自分の感情を受け入れることだ。無理に抑え込む必要はない」
アルフレッドは優しく諭した。リリアは再び手をかざし、今度は自分の感情を素直に感じることにした。恐怖も、悲しみも、すべてを認める。すると、力が少しずつ安定していくのを感じた。
「できた……かもしれません」
リリアの手のひらから、穏やかな光が放たれた。それは、あの日の暴走とは違い、温かく包み込むような光だった。
「よくできたな」
アルフレッドが微笑んだ。リリアは嬉しさで胸がいっぱいになった。しかし、その時、彼の顔に一瞬、苦しげな表情が浮かんだ。
「公爵様?」
「いや、何でもない。続けよう」
アルフレッドは誤魔化したが、リリアは彼の腕に黒い紋様が浮かんでいるのを見逃さなかった。呪いの気配が強まっている。
「公爵様、その紋様は……」
「気にするな。訓練に集中しろ」
リリアは心配になったが、アルフレッドの言葉に従い、再び訓練を続けた。しかし、彼の呪いが自分の力と共鳴しているような感覚があった。もしかしたら、自分の力で彼の呪いを解けるかもしれない。
訓練が終わり、リリアは汗を拭いながら、アルフレッドに向き合った。彼は疲れた様子だったが、それでも優しく微笑んでいた。
「今日はよく頑張ったな。少しずつだが、力が安定してきている」
「公爵様のおかげです。ありがとうございます」
リリアは深くお辞儀をした。しかし、その拍子に、彼女の目から涙がこぼれ落ちた。
「どうした?」
アルフレッドが心配そうに近づく。リリアは涙を拭いながら、震える声で言った。
「私は……ずっと一人だと思っていました。教会でも、誰も私を認めてくれなかった。でも、公爵様は私を信じてくれる。それが、とても嬉しくて」
リリアの言葉に、アルフレッドは彼女をそっと抱きしめた。
「君は一人ではない。私がいる。これからも、ずっと」
その温もりに、リリアは初めて心の底から安心できる気がした。彼女はアルフレッドの胸に顔を埋め、しばらく泣いた。アルフレッドは何も言わず、ただ彼女の背中を撫でていた。
「すみません、取り乱してしまって」
リリアが顔を上げると、アルフレッドは優しく彼女の髪を撫でた。
「謝る必要はない。君の弱さも、私が受け止める」
その言葉に、リリアは心の壁が少しだけ崩れた気がした。彼なら、自分の全てを受け入れてくれるかもしれない。
「公爵様、私、頑張ります。必ず、公爵様の呪いを解いてみせます」
「ああ、期待している」
リリアはアルフレッドの手を握り返した。その時、彼女の手に、彼の呪いの気配が感じられた。それは、自分の力と共鳴するような、不思議な感覚だった。
「公爵様、もしかしたら、私の力で……」
リリアが言いかけた時、アルフレッドの腕の紋様が一瞬、強く光った。彼は痛みをこらえるように顔を歪めた。
「公爵様!」
「大丈夫だ。少し疲れただけだ」
アルフレッドは無理に笑ったが、リリアには彼が苦しんでいることが分かった。彼の呪いは、日に日に強くなっているのかもしれない。
「今日はもう休みましょう。また明日、続きをしよう」
アルフレッドはそう言って、訓練場を後にした。リリアは彼の背中を見つめながら、自分の力で彼を救いたいと強く願った。
その夜、リリアは自室で、昼間に感じた共鳴について考えていた。自分の力とアルフレッドの呪いが反応し合っている。もしかしたら、彼の呪いを解く鍵は、自分にあるのかもしれない。
リリアは窓の外を見つめた。月明かりが静かに降り注いでいる。その時、彼女の手のひらが微かに熱を帯びた。
特訓の最中、リリアは公爵の呪いが自分の力と共鳴するのを感じ取る。






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