📖 追放された聖女、呪われた公爵と契約結婚して最幸のスローライフを手に入れる
契約結婚の始まり・代償
雨がしとしとと降り続く街角で、リリアは教会の重い扉が閉じられる音を聞いた。彼女の手には、聖女の証である銀のペンダントがあったが、それはもう光を失っていた。
「もう、あなたの力は必要ありません」
枢機卿クラウディアの冷たい言葉が耳に残る。リリアは追放されたのだ。幼い頃に両親を亡くし、教会に引き取られてから十年。聖女としての力は不安定で、制御できないことが多かった。それでも、彼女は人々を癒すために努力してきた。しかし、教会は彼女の力を危険視し、ついに追放を決めたのだ。
雨に濡れながら、リリアは行き場を失って立ち尽くす。彼女にはもう、帰る場所も、頼る人もいない。
「どうすれば……」
リリアが呟いたその時、一台の馬車が彼女の前に止まった。馬車から降りてきたのは、黒髪に鋭い瞳を持つ男性だった。彼は濡れることも気にせず、リリアの前に立った。
「あなたが、追放された聖女リリア・グレイか」
男性の声は低く、どこか冷たさを帯びていた。リリアは警戒しながらも、頷いた。
「私はアルフレッド・アッシュフォード公爵だ。あなたに契約結婚の申し出がある」
リリアは公爵の突然の申し出に驚き、警戒心を強めた。
「契約結婚……? なぜ私のような者に?」
公爵は淡々と答えた。
「私の領地は呪いに蝕まれている。聖女の力を持つあなたなら、その呪いを浄化できるかもしれない。だが、あなたの力が制御できないなら、領地に害を及ぼす可能性もある。だから、契約を結ぶ。あなたが力を使いこなせるようになるまで、領地で暮らしてもらう。もし、力が制御できなければ、追放する」
リリアは唇を噛んだ。彼女の力は確かに不安定で、時折暴走することもある。しかし、このまま雨の中で行き場を失うよりは、公爵の申し出を受け入れる方がましだった。
「……承知しました」
リリアは公爵の差し出した契約書にサインをした。その瞬間、雨はさらに激しくなり、彼女の決意を試すかのようだった。
馬車に乗り込むと、公爵は無言のまま窓の外を見ていた。リリアはその冷たい態度に不安を覚えつつも、公爵領への道中、彼の横顔をこっそりと眺めた。
「公爵様は、なぜ私を選んだのですか?」
リリアが勇気を出して尋ねると、公爵は少しだけ視線を動かした。
「聖女の力を持つ者は、他にいないからだ」
その答えは簡潔で、感情が感じられなかった。リリアはそれ以上問い詰めることができず、黙り込んだ。
馬車はしばらく進み、公爵領の入り口に差し掛かった。そこには、石造りの立派な門があり、その向こうには荒廃した土地が広がっていた。木々は枯れ、畑は荒れ果て、遠くの村からはかすかに苦しむような声が聞こえてくるようだった。
「これが、私の領地だ」
公爵の声には、かすかな苦悩が滲んでいた。リリアはその光景に息を呑んだ。
「呪いの影響で、領民は病に苦しみ、作物は育たない。私はこの呪いを解くために、あなたの力を借りたい」
公爵はそう言うと、馬車を降り、リリアを公爵邸へと案内した。だが、その途中、リリアは道端で倒れている領民の姿を目にした。
「大丈夫ですか?」
リリアは駆け寄ろうとしたが、公爵が彼女の腕を掴んで止めた。
「近づくな。呪いが移るかもしれない」
公爵の警告に、リリアは足を止めた。しかし、苦しむ人々を見過ごすことはできなかった。
「私の力で、何とかできるかもしれません」
リリアが手をかざすと、かすかな光が彼女の手から溢れ出した。だが、その光はすぐに不安定に揺らぎ、消えてしまった。
「まだ制御できていないようだな」
公爵の冷たい言葉に、リリアは唇を噛んだ。彼女は自分の力のなさに悔しさを感じた。
「……すみません」
リリアが謝罪すると、公爵は何も言わずに歩き出した。その後ろ姿は、孤独で、どこか哀しげだった。リリアはその背中を見つめながら、自分も同じ孤独を抱えていることに気づいた。
公爵邸に到着すると、リリアは自分の部屋へ案内された。部屋は質素だが清潔で、窓からは荒廃した領地が見えた。
「今夜はここで休め。明日から、領地の状況を説明する」
公爵はそう言い残すと、部屋を出て行こうとした。リリアはその背中に声をかけた。
「公爵様」
公爵が振り返る。
「領民の方々を、助けたいです。私の力で、少しでも力になれるなら」
公爵は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに元の無表情に戻った。
「……好きにしろ」
そう言って、公爵は部屋を出て行った。リリアは窓の外を見つめながら、これからの生活に思いを馳せた。
翌朝、リリアは公爵と共に領地を視察した。荒れ果てた畑、病に苦しむ人々、そして、どこか陰鬱な空気。リリアはその現実を目の当たりにし、自分の力の重要性を痛感した。
「この呪いは、私の血筋に起因する」
公爵がぽつりと呟いた。リリアはその言葉に驚き、公爵を見つめた。
「血筋……?」
「詳しいことは言えない。だが、私のせいで、領民が苦しんでいる」
公爵の顔には、深い苦悩の色が浮かんでいた。リリアはその姿に、自分が教会で感じていた孤独と似たものを感じた。
「公爵様も、苦しんでいらっしゃるのですね」
リリアがそう言うと、公爵は少しだけ目を見開いた。しかし、すぐに表情を消し、歩き出した。
「……行くぞ」
リリアは公爵の後を追いながら、彼の心の内を知りたいと思った。そして、自分の力でこの領地を救いたいと強く願った。
その日の夕方、リリアは領地の診療所を訪れた。そこには、呪いの影響で苦しむ領民たちがいた。リリアは彼らの姿を見て、胸が締め付けられる思いだった。
「私にできることがあれば」
リリアはそう言って、手をかざした。彼女の手からは、かすかな光が溢れ出した。しかし、その光は不安定で、すぐに消えてしまった。
「まだ、力が安定しない……」
リリアは悔しさに唇を噛んだ。彼女は何度も挑戦したが、力は制御できなかった。
「無理をしないでください」
診療所の医師が優しく声をかけた。
「あなたの力は、少しずつ使えるようになればいいのですから」
リリアはその言葉に、少しだけ救われた。しかし、彼女は自分の力のなさに焦りを感じていた。
その夜、リリアは部屋で一人、自分のペンダントを見つめていた。銀のペンダントは、昔、両親がくれたものだった。
「お父様、お母様……私は、この力で人を救いたい」
リリアはそう呟き、ペンダントを握りしめた。
翌日、リリアは公爵と共に領地を視察していた。すると、遠くから苦しむ声が聞こえてきた。リリアが駆け寄ると、そこには呪いの症状が重い領民が倒れていた。
リリアは苦しむ領民の姿を目の当たりにし、その場に立ち尽くす。






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