📖 捨てられた聖女は冷徹公爵の契約婚約者となり、偽りの恋で王国を救う
辺境の試練・最初の手がかり
翌朝、リリアとユリウスは、前夜の襲撃地点の地図を広げたまま、魔物の襲撃パターンから割り出した地点を調査していた。地図上に赤い印がいくつも並ぶ。それは、魔物が現れた場所を示していた。
「この印、一直線に並んでいるわ。まるで、誰かが誘導しているみたい」
リリアが指でなぞると、ユリウスも頷いた。
「ああ。魔物は通常、縄張りを守るように動く。だが、このパターンは明らかに人為的だ」
二人は地図を睨みつけ、印の先にある地点を特定した。それは、辺境の森の奥深く、かつてセシリアが研究していた場所だった。
「ここだ。この場所に、セシリアの協力者が潜んでいる可能性が高い」
リリアは決意を固め、ユリウスを見上げた。
「公爵様、調査に向かいましょう。このままでは、村々を守りきれません」
ユリウスは一瞬ためらったが、リリアの強い意志を感じ取り、頷いた。
「分かった。だが、無理はするな。何かあれば、すぐに撤退する」
二人は準備を整え、森へと足を踏み入れた。
森の中は、魔物の気配が濃厚だった。リリアは慎重に足を進め、ユリウスは剣の柄に手を置いたまま警戒を怠らない。しばらく進むと、木々の隙間に古びた石造りの建物が見えた。かつての研究施設の跡だろう。
「あそこだ」
ユリウスが低く言った。二人は建物に近づき、入口を確認する。扉は半開きで、中からはかすかに物音が聞こえた。
「誰かいる」
リリアが囁くと、ユリウスは頷き、先に立って中へ入った。中は薄暗く、古い書類や魔道具が散乱していた。奥の部屋から、人の気配がする。
「おい、誰か来たぞ」
男の声がした。瞬間、部屋の隅から複数の人影が現れた。セシリアの協力者たちだ。彼らは武器を手に、リリアたちに襲いかかろうとした。
「下がれ!」
ユリウスが剣を抜き、前に出る。だが、相手の数は五人。ユリウスは負傷しているとはいえ、歴戦の騎士だ。剣を振るい、一人、また一人と倒していく。リリアは後方で、戦況を見守りながら、周囲の魔道具を調べた。
「これは……設計図?」
机の上に広がった紙には、複雑な魔法陣と魔道具の構造が描かれていた。魔物を操るための装置の設計図だ。リリアはそれを手に取り、分析しようとした。
その時、床が突然光り出した。
「罠だ!」
ユリウスが叫ぶが、時すでに遅し。部屋全体に結界が張り巡らされ、二人は閉じ込められてしまった。協力者たちは笑いながら、結界の外へと消えていく。
「ふん、聖女様と公爵様がこんな所でお陀仏とはな」
男たちの声が遠ざかる。結界は強固で、簡単には破れそうにない。リリアは設計図を握りしめ、唇を噛んだ。
「くっ、まさか罠があったなんて」
ユリウスは剣をしまい、結界を調べ始めた。だが、魔力を込めても弾かれるだけだ。
「どうやら、本格的な結界のようだ。脱出は容易ではない」
リリアは設計図を広げ、結界の構造を分析し始めた。彼女の知識が、ここで役に立つ。
「公爵様、この結界、魔力を吸収するタイプです。無理に破ろうとすると、逆に強化されます」
「では、どうすればいい?」
リリアは設計図の隅に書かれた文字を見つけた。そこには、結界の弱点が記されていた。
「あります。この結界は、特定の周波数の魔力で揺らぐようです。私の魔力は失われていますが、公爵様の魔力と組み合わせれば、突破口を開けるかもしれません」
ユリウスは頷き、リリアの指示に従って魔力を調整した。二人は協力して、結界の弱点を突く。
「今です!」
リリアの合図で、ユリウスが魔力を解放した。結界が揺らぎ、ひび割れが生じる。だが、まだ完全には破れない。
「もう一度!」
二人は力を合わせ、再び魔力を集中させた。今度は、結界が大きく歪み、光が漏れ出した。
結界が破れる瞬間、ユリウスはリリアを庇うように抱き寄せた。破片が飛び散り、彼の腕に傷ができる。
「公爵様!」
リリアは慌てて彼の腕を見た。血が滲んでいる。
「大丈夫だ。かすり傷だ」
ユリウスはそう言ったが、リリアは彼の顔色が少し悪いことに気づいた。前の傷がまだ完治していないのだ。
「無理をなさらないでください。私が手当てします」
リリアは持っていた布で彼の腕を縛りながら、心臓が高鳴るのを感じた。彼が自分を守ろうとしてくれたことが、嬉しかった。
「すまない、助かった」
ユリウスはリリアを見つめ、穏やかな声で言った。その目には、感謝の色が浮かんでいる。
「いいえ、公爵様のおかげで脱出できました。私こそ、ありがとうございます」
リリアは微笑んだ。彼の強さに頼り、そして、自分も彼を支えられたことが、何より心強かった。
「さて、この設計図を分析すれば、魔物を操る方法を無効化できるかもしれません」
リリアは設計図を広げ、詳細を調べ始めた。ユリウスも傍らで、彼女の作業を見守る。
「君の知識は、いつも頼りになる」
ユリウスの言葉に、リリアは顔を上げた。彼に認められたことが、素直に嬉しい。
「公爵様にそう言っていただけると、励みになります」
二人は顔を見合わせ、微笑んだ。その瞬間、少しだけ距離が縮まった気がした。
リリアは設計図を注意深く読み解き、ある記述に目を留めた。それは、聖女の力を封印する方法についてのメモだった。
「これは……私の失った力が、辺境の古代遺跡に封印されている?」
リリアは息を呑んだ。設計図には、遺跡の場所と封印の手順が記されていた。
リリアは設計図を握りしめ、ユリウスを見上げた。彼もまた、その記述を読んでいた。
「この遺跡に行けば、もしかすると……」
リリアの声は、期待と不安で震えていた。
脱出後、リリアは設計図から、自分の失った聖女の力が完全に封印された場所が辺境の古代遺跡にあることを示す記述を発見する。






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