📖 捨てられた聖女は冷徹公爵の契約婚約者となり、偽りの恋で王国を救う
追放と契約・公然の挑戦
図書室の薄暗がりで、私は古びたページに指を這わせた。そこには、聖女の力を封印する儀式の詳細が記されていた。月光草、銀の雫、そして聖女の血。三つの触媒が必要だと書かれている。私は自分の指を見つめ、かつて聖女だった頃に採取した血の小瓶を思い出した。あれは確か、実家のクローフォード辺境伯領に置いてきたはずだ。だが、今はここを離れるわけにはいかない。ユリウスは王都への行動を禁じた。しかし、このまま黙っていれば、セシリアの思う壺だ。私は本を閉じ、決意を固めた。まずは、この図書室で封印を解く方法をさらに調べるしかない。
その時、図書室の扉がノックされ、執事が入ってきた。「リリア様、お客様がお見えです。王都から、セシリア様の使者と名乗る者が」私は眉をひそめた。セシリアが使者を送ってくるとは、何を企んでいるのか。私は本を棚に戻し、大広間へ向かった。そこには、見覚えのない男が立っていた。彼は私を見ると、慇懃に礼をした。「クローフォード嬢、セシリア様より伝言を預かってまいりました。『偽りの聖女が辺境で何を企んでいるか知らないが、今すぐ王都に戻り、公の場で謝罪なさい。さもなくば、あなたの家族に相応の報いを受けてもらう』と」私は唇を噛んだ。家族を人質に取るというのか。ユリウスが隣に立ち、冷たい声で言った。「セシリア様の使者とあろう者が、公爵領で脅迫とは無礼が過ぎる。帰りなさい」しかし、使者は動じず、「これは王家の命令でもあります。公爵とて、逆らえまい」と言い放った。私は一歩前に出た。「私はユリウス様の契約婚約者です。この立場を無視して、辺境伯家を脅すとは、王国法に反するのでは?」使者は嘲笑した。「契約婚約など、ただの方便でしょう。聖女の力も失った今、あなたに何ができるのですか」私は拳を握りしめた。確かに、今の私には魔力がない。だが、知識と交渉術はある。私は静かに、しかしはっきりと言った。「私は真の聖女です。セシリアが偽物だという証拠を、いずれ示してみせます。それまで、家族に手を出すなら、公爵家が黙っていません」ユリウスが私の言葉に続き、「その通りだ。リリアは我が公爵家が保護している。手を出すなら、我が家を敵に回すことになるぞ」使者は一瞬たじろいだが、「では、覚悟なさい」と言い残して去っていった。私は安堵の息をついたが、事態は深刻だ。セシリアは本気で私を潰すつもりだ。ユリウスが私を見て言った。「よくやった。だが、これで終わりではない。セシリアは次の手を打ってくるだろう」私は頷いた。「ええ。だから、こちらも準備を進めます。まずは、辺境の村々で聖女の奇跡を再現してみせます。そうすれば、民衆の心を取り戻せるはず」ユリウスは考え込んだ。「奇跡の再現か。具体的には?」私は持参した魔道具を取り出した。「これは、古代の儀式で使われた触媒のレプリカです。魔力はなくても、この触媒と呪文で、小さな光を生み出せます。それを民衆の前で見せれば、聖女の力が戻ったと思わせられる」ユリウスは感心したように言った。「なるほど。だが、それは偽りの奇跡ではないか?」私は首を振った。「いいえ、これは本物の奇跡を再現するための第一歩です。私の力は封印されているだけで、完全に失われたわけではありません。封印を解く方法を探しています」ユリウスは私をじっと見つめた。「封印を解く?
それは可能なのか?」私は本の記述を思い出しながら言った。「可能です。ただし、三つの触媒が必要です。月光草、銀の雫、そして聖女の血。月光草はこの辺境に生えています。銀の雫は、王都の神殿にしかないと言われています。聖女の血は、私が実家に保存してあります」ユリウスは腕を組んだ。「銀の雫は神殿の宝物だ。簡単には手に入らない」私は頷いた。「だから、まずは月光草を集め、奇跡の再現を成功させます。そうすれば、民衆の支持を得られ、セシリアに対抗する力になります」ユリウスはしばらく沈黙した後、言った。「分かった。その計画に協力しよう。ただし、無理はするな。何かあれば、すぐに私に知らせろ」私は彼の言葉に、わずかに心が温かくなるのを感じた。彼は私を信頼し始めているのかもしれない。
その夜、私はユリウスと共に、今後の方策を練るため、執務室にいた。机の上には、辺境の地図と、集めた情報が広げられている。ユリウスは地図を指さしながら言った。「まずは、この村から始めるのがいいだろう。ここは魔物の襲撃で被害が大きく、民衆の不安が高い」私は頷いた。「では、明日にでも向かいましょう。私が光の奇跡を見せれば、希望を持ってもらえるはず」ユリウスは私を見つめ、何かを考えるように言った。「リリア、君に聞きたいことがある」私は顔を上げた。「何でしょう?」彼は少し躊躇した後、口を開いた。「君は、幼い頃にどこかで会ったことがあるかもしれない。確証はないが、君の目に見覚えがある気がする」私は驚いた。彼に会った記憶はない。しかし、彼の言葉に、なぜか心がざわついた。「私も、あなた様に初めてお会いしたのは、契約の儀式の時ですが…」ユリウスは首を振った。「いや、もっと前だ。もしかすると、君がまだ聖女になる前のことかもしれない」私は困惑した。彼が何を言いたいのか分からない。だが、彼の真剣な眼差しに、私は問い返すことができなかった。「…分かりません。でも、もしお会いしていたなら、その時はお世話になったのかもしれませんね」私は微笑んでごまかした。ユリウスは何か言いかけたが、やめて、「いや、気にしないでくれ。ただの気のせいかもしれない」と言った。私は彼の言葉が引っかかりながらも、その場を離れた。彼は何を知っているのだろうか。
部屋を出る間際、私はユリウスの言葉を反芻していた。彼が私に会ったことがあるというのは、本当なのだろうか。だが、彼がなぜそれを今になって話すのか。
公爵がリリアに、彼女の幼少期に会ったことがあるかもしれないとほのめかすが、確証は持てないと言う。リリアはその言葉に困惑しつつも、彼の真意を探ろうとする。






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