📖 捨てられた聖女は冷徹公爵の契約婚約者となり、偽りの恋で王国を救う
辺境の試練・新たな計画
結界の維持に疲れ果てたリリアは、遠くの丘の上に目をやった。そこに、見覚えのある人影が倒れているのが見えた。一瞬、心臓が止まる思いがした。あの銀色の髪、軍服のシルエット。間違いない、ユリウス様だ。
「ユリウス様!?」
リリアは村人たちの制止を振り切り、よろめきながら丘へと駆け出した。足元がふらつき、何度も転びそうになる。それでも、彼の元へ辿り着かねばという思いが、体を突き動かした。
丘の上に近づくにつれ、血の匂いが強くなる。ユリウスは地面にうつ伏せに倒れ、背中には深い傷があった。軍服は血に染まり、意識がないようだ。
「ユリウス様! しっかりしてください!」
リリアは彼を仰向けにし、顔を覗き込んだ。青白い顔、荒い呼吸。早く手当てをしなければ。だが、ここでは何もできない。
「村まで運びます!」
リリアは彼の体を担ぎ上げようとしたが、あまりの重さによろめいた。それでも、村人たちが駆け寄り、協力してユリウスを村の仮設治療所まで運んだ。
治療所に運び込まれたユリウスは、意識が戻らないままだった。リリアは彼の傷口を確認し、手当てを始めた。幸い、傷は深いが命に関わるものではない。だが、魔力の消耗が激しく、回復には時間がかかるだろう。
「公爵様は前線で戦っておられたのですか?」
リリアの問いに、ユリウスは薄く目を開け、かすれた声で答えた。
「ああ……反乱軍の背後に、魔物を操る者がいる。そいつに襲われて、やむを得ず撤退した」
「魔物を操る者……まさか」
リリアはセシリアの影を感じた。彼女なら、魔物を使役する術に手を染めても不思議ではない。だが、証拠はない。
「公爵様、お休みください。あなたが倒れては、この村は守れません」
リリアはユリウスに薬を飲ませ、安静にさせた。彼が眠りについたのを確認し、リリアは村長たちを集めた。
「公爵様の話では、魔物の襲撃は単なる偶然ではないようです。背後に黒幕がいる可能性が高い」
村人たちはざわめいた。ただでさえ魔物の脅威に怯えているのに、さらに黒幕がいると聞いては不安が募る。
「ですが、ここで怯えていても何も変わりません。私たちで防衛網を強化しましょう」
リリアは地図を広げ、村々の位置を確認した。辺境にはいくつかの村が点在している。それぞれが孤立しているからこそ、魔物に狙われやすい。
「各村を連携させ、互いに支援できる体制を作ります。狼煙や伝令を活用し、襲撃があればすぐに応援を呼べるようにしましょう」
リリアの提案に、村長たちは顔を見合わせた。だが、彼女の真剣な眼差しに押され、次第にうなずき始めた。
「リリア様、あなたに従います」
村長の一人が言った。リリアは感謝しつつも、内心では焦りを感じていた。この計画を実行するには、時間と人手が足りない。魔物の襲撃がいつ再開してもおかしくないのだ。
「まずは、この村の結界を強化します。その後、各村に伝令を送り、連携の準備を進めましょう」
リリアは村人たちに指示を出しながら、ユリウスの回復を待つことにした。彼の知識と経験があれば、より強固な防衛網を築けるはずだ。
数時間後、ユリウスが目を覚ました。リリアが差し出した水を飲み、彼はゆっくりと体を起こした。
「すまない、迷惑をかけた」
「いいえ、公爵様が無事で何よりです」
リリアはほっと息をついた。彼が目を覚ましたことで、心の重荷が下りた気がした。
「村の状況は?」
ユリウスの問いに、リリアは簡潔に説明した。魔物の襲撃、結界の維持、そして村々を連携させた防衛網の計画。ユリウスは黙って聞き、最後に口を開いた。
「よくやった。その計画は有効だ。だが、各村の連携には時間がかかる。まずは、この村を拠点に、周辺の村々に伝令を送るのが良いだろう」
ユリウスの助言は的確だった。リリアは彼の知識に頼ることの大きさを改めて感じた。
「公爵様、あなたがいらっしゃって心強いです」
リリアがそう言うと、ユリウスはわずかに目を見開いた。そして、口元をわずかに緩めた。
「俺もだ。君がいてくれて助かった」
その言葉に、リリアの胸が温かくなった。彼に認められたことが、素直に嬉しかった。
「では、早速準備を始めましょう。村長たちには私から説明します」
リリアは立ち上がり、ユリウスに背を向けた。彼の視線を感じながら、彼女は村人たちの元へ向かった。
その夜、リリアとユリウスは村長たちと共に、防衛網の詳細を詰めた。ユリウスは軍略に長けており、各村の地形や兵力を考慮した配置を提案した。リリアはそれを聞きながら、彼の能力を改めて思い知った。
「公爵様、あなたはなぜ私を助けてくれるのですか?」
リリアが尋ねると、ユリウスは少し驚いた顔をした。
「君は俺の契約婚約者だ。それに、君の知識はこの国に必要だ」
その答えは、彼らしいと言えば彼らしかった。だが、リリアはどこか物足りなさを感じた。もっと別の理由があってもいいのに、と。
「そうですか。それなら、私はその期待に応えられるよう努力します」
リリアは微笑んだ。ユリウスは何も言わず、ただ頷いた。
翌朝、リリアは村の広場で、村人たちに防衛網の説明を行った。ユリウスも傍らに立ち、時折補足を入れた。村人たちは熱心に耳を傾け、協力を約束してくれた。
「これで、少しは安心できます」
リリアはユリウスに言った。彼は頷き、遠くを見つめた。
「だが、まだ油断はできない。魔物の襲撃は、これからも続くかもしれない」
その言葉に、リリアも表情を引き締めた。確かに、彼の言う通りだ。だが、今は目の前のことに集中しよう。
「では、まずは各村への伝令を準備します」
リリアはそう言って、作業に取りかかった。
計画の準備を進める中、リリアは魔物の襲撃パターンを分析していた。すると、あることに気づいた。魔物たちは、特定の方向からしか現れていない。それは、誰かが意図的に魔物を誘導していることを示していた。
「この襲撃、もしかして……」
リリアは地図を見つめ、ある地点に目を留めた。そこは、辺境の森の奥深く。かつてセシリアが研究していた場所だった。
計画の準備中、リリアは魔物の襲撃パターンから、セシリアの協力者が近くに潜んでいる可能性に気づく。






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