📖 【追放された聖女、隣国の公爵に買われる ~穢れを祓う力で、幸せな結婚生活を掴みます~】
契約と試練・最初の手がかり
「公爵閣下、この作戦、私にやらせてください」
リリアーナの言葉に、エリアスは地図から顔を上げた。彼の翡翠色の瞳が、真剣な光を宿して彼女を捉える。
「お前が囮になる、と言うのか?」
「はい。私の浄化の力が、セシリアの目を引くはずです。彼女は私の力を恐れ、狙っています。ならば、それを利用しない手はありません」
リリアーナは強い意志を込めて言い切った。先ほどの祠での出来事で、自分の力がセシリアにとって脅威であることを痛感した。ならば、その力を武器に変えるべきだ。
エリアスはしばらく沈黙し、彼女の決意を測るように見つめていたが、やがて微かに口元を緩めた。
「分かった。だが、無理はするな。もし危険を感じたら、すぐに退け」
「はい、ありがとうございます」
リリアーナは頷き、地図に目を落とした。エリアスが示した街道沿いの村は、領地の南端に位置している。そこはセシリアのスパイが頻繁に出入りする場所だという。
「この村で、お前の存在を派手に知らしめる。そうすれば、スパイが動くはずだ」
エリアスの説明に、リリアーナは静かにうなずいた。彼の作戦は理にかなっている。自分の力を誇示することで、敵をおびき寄せる。それは危険を伴うが、セシリアの陰謀を暴くための近道でもあった。
「準備ができ次第、出発する」
エリアスの言葉に、リリアーナは胸の内で決意を新たにした。
街道沿いの村に到着したリリアーナは、早速浄化の儀式を始めた。村の中央にある泉を聖女の力で清めると、周囲に柔らかな光が広がる。村人たちは驚きと感謝の目で彼女を見つめ、中には跪く者もいた。
「聖女様、ありがとうございます!」
「この村に長年あった穢れが、ようやく晴れました」
リリアーナは微笑みを返しながらも、視線は周囲を警戒していた。エリアスの指示通り、自分の存在を誇示することが目的だ。しかし、その一方で、いつスパイが現れてもおかしくないという緊張感があった。
儀式が終わり、村人たちが歓喜に沸く中、リリアーナはふと違和感を覚えた。村の外れ、木立の陰に、こちらを窺う人影がある。ローブを目深に被り、顔を隠している。
(あれが、スパイかしら)
リリアーナは村人たちに別れを告げると、自然な動作でその方向へ歩き出した。人影は彼女が近づくのを見ると、慌てて逃げ出した。
「待って!」
リリアーナはスカートの裾をたくし上げ、追跡を開始した。しかし、相手は足が速く、曲がりくねった小道を巧みに利用して距離を取ろうとする。リリアーナは必死に追いかけたが、石につまずいて転んでしまった。
「くっ…!」
膝を打ち付け、痛みが走る。しかし、その拍子に、スパイが何かを落としたことに気づいた。それは一通の手紙だった。封蝋には見慣れない紋章が押されている。
リリアーナは手紙を拾い上げ、周囲を確認した。スパイの姿はもう見えない。彼女は手紙を胸に抱え、村へ戻ることにした。
村の宿で、リリアーナは手紙を開いた。中には暗号が書かれていた。数字とアルファベットが不規則に並び、意味を成さない。彼女はしばらく睨めっこしたが、解読の糸口すら掴めない。
「これは、何かの暗号ね…」
リリアーナはため息をついた。しかし、この手紙が重要な手がかりであることは間違いない。彼女は手紙を握りしめ、エリアスのもとへ急いだ。
エリアスはリリアーナが持ち帰った手紙を、慎重に検分した。暗号を一目見て、彼の眉がひそまる。
「これは、教会が使う特殊な暗号だ。解読には時間がかかる」
「ですが、何か手がかりはありますか?」
リリアーナが尋ねると、エリアスは手紙を机の上に広げ、指でなぞりながら説明を始めた。
「この数字の並びは、聖典の章と節を示している。そして、アルファベットは対応する単語の頭文字だ」
エリアスの説明を聞きながら、リリアーナは感心した。彼はただの貴族ではなく、教会の内部事情にも精通しているようだ。
「これを解読すれば、セシリアの次の標的が分かるかもしれません」
リリアーナが言うと、エリアスは頷き、解読に取り掛かった。彼女も横に並び、手伝う。二人は黙々と作業を進め、やがて一つの単語が浮かび上がった。
「『北の鉱山』…」
リリアーナは息を呑んだ。鉱山は領地の重要な資源であり、もし呪いをかけられれば、経済的な打撃は計り知れない。
「セシリアは、鉱山を狙っているのね」
エリアスは険しい表情で頷いた。
「ああ。鉱山には多くの労働者がいる。もし彼らが呪われれば、領地全体に影響が出る」
リリアーナは拳を握りしめた。セシリアの陰謀を止めなければ。
「公爵閣下、私も同行させてください」
エリアスは彼女を見つめ、その目に強い決意を認めた。彼は少し迷ったが、やがて頷いた。
「分かった。だが、絶対に俺の指示に従え。無茶はするな」
「はい、お約束します」
リリアーナが微笑むと、エリアスも微かに口元を緩めた。彼女の勇敢さと機転に、彼はますます信頼を寄せていた。
エリアスは地図を広げ、北の鉱山への最短ルートを指でなぞった。
「すぐに出発する。馬を二頭用意させろ」
彼が使用人に指示を飛ばす中、リリアーナは自分の荷物をまとめ始めた。しかし、その時、彼女の胸に一つの疑問が浮かんだ。
(なぜセシリアは、鉱山を狙うのかしら?)
彼女が考え込んでいると、エリアスが声をかけてきた。
「準備はいいか?」
「はい、いつでも」
リリアーナは頷き、彼の後ろに続いた。馬に跨がり、北へと駆け出そうとしたその時、エリアスが突然手綱を止めた。
「待て。そういえば、鉱山には最近、奇妙な噂があるのを思い出した」
エリアスはリリアーナに向き直り、真剣な表情で言った。
公爵は「すぐに鉱山へ向かう」と決断し、リリアーナも同行を申し出る。






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