翌朝、公爵邸の応接室には緊張が走っていた。昨夜の穏やかな時間が嘘のように、空気は張り詰めている。リリアーナが東の村の封印を解く手がかりを探るため、書庫で地図を広げていたところへ、執事が慌てた様子で駆け込んできた。
「お嬢様、大変です。教会から使者が参られました。公爵閣下も応接室へお越しくださいと」
リリアーナは顔を上げ、地図を畳んだ。教会からの使者。嫌な予感がする。彼女は胸の奥で何かがざわつくのを感じながら、執事の後について応接室へ向かった。
応接室の扉を開けると、そこには白い法衣をまとった初老の男が立っていた。彼はリリアーナを見るなり、鋭い視線を向けた。
「お久しぶりです、リリアーナ。いや、今はただのリリアーナと申すべきか」
その声には、明らかな敵意が込められていた。リリアーナは背筋を伸ばし、平静を装って答えた。
「ご無沙汰しております、司祭様。どのようなご用件でしょうか」
司祭は冷笑を浮かべ、懐から一通の書簡を取り出した。
「これは教会からの正式な告発状だ。お前が聖女の力を使い、不正を行ったという証拠が揃っている」
リリアーナの心臓が凍りついた。
「それは偽りです」
リリアーナは即座に反論した。しかし、司祭は書簡を広げ、そこに記された内容を読み上げ始めた。
「お前は神殿の宝物を盗み、それを売り払った。さらに、治癒の儀式の際に、代価として金品を要求していた。これらの証言は、複数の信徒によってなされている」
「そんなことは一度もありません。私は常に誠実に務めてまいりました」
リリアーナは声を強めたが、司祭は鼻で笑った。
「証拠はある。お前の部屋から、盗まれたはずの装飾品が見つかったそうだ。これは、教会の封印を解く鍵でもある」
リリアーナは息を呑んだ。確かに、彼女は東の村の封印を解く手がかりを探す中で、教会の封印の欠片を手に入れていた。だが、それは盗んだものではない。彼女はそれを説明しようとしたが、司祭は遮った。
「言い訳は無用。お前は教会の権威を貶めた。即刻、教会へ連れ戻す」
司祭が手を挙げると、背後に控えていた衛兵たちが前に出た。リリアーナは後退りしたが、壁に阻まれた。
「待て」
その時、低い声が響いた。エリアスが応接室の扉を開け、中に入ってきた。彼は司祭を一瞥し、リリアーナの前に立った。
「この件は、私が預かる。リリアーナは私の庇護下にある。教会の一存で連れ去ることは許さん」
司祭は眉をひそめた。
「公爵閣下、これは教会の内政問題です。貴方の介入は、教会との関係を悪化させることになりかねませんぞ」
エリアスは冷ややかに答えた。
「この領地では、私の法が優先される。彼女に嫌疑があるなら、証拠を示せ。それがなければ、彼女はここに留まる」
司祭は唇を噛んだ。しかし、彼は持っていた書簡をエリアスに差し出した。
「ならば、これをご覧ください。これは教会の封印の写しです。この封印を解くことができれば、彼女の潔白が証明されるでしょう。しかし、解けなければ、彼女は罪を認めたことになる」
エリアスは書簡を受け取り、目を通した。そこには、複雑な紋様とともに、こう記されていた。
「この封印は、聖女の力を持つ者にのみ解ける。もし偽りの聖女ならば、封印は解けず、呪いがかかるだろう」
エリアスはリリアーナを見た。リリアーナは頷いた。
「私は、この封印を解いてみせます」
しかし、司祭は嘲笑した。
「ふん、三日で解けるものか。この封印は、教会の最高機密だ。お前ごときが解けるはずがない」
エリアスはリリアーナの手を握り、静かに言った。
「リリアーナ、お前を信じる。だが、領主として、教会と全面対決するわけにはいかない。猶予を与える。三日間で、その封印を解いてみせろ」
リリアーナは、その手の温もりに力を得た。彼は、自分の潔白を証明する機会を与えてくれたのだ。
「はい、必ず」
リリアーナは、エリアスの目をまっすぐに見つめて答えた。司祭は、二人の様子を冷ややかに見つめていたが、やがて口を開いた。
「では、三日後の正午、ここで封印を解いてもらおう。もし解けなければ、その時は教会の裁きを受けるがよい」
司祭はそう言い残すと、衛兵を連れて応接室を去った。
部屋に残された二人は、しばらく沈黙していた。エリアスはリリアーナの手を離し、窓の外を見つめた。
「すまない、リリアーナ。私の力不足で、こんな形になってしまった」
リリアーナは首を振った。
「いいえ、公爵閣下が信じてくださっただけで、十分です。私は、この封印を解く方法を必ず見つけます」
エリアスは振り返り、リリアーナを見た。その目には、信頼と心配が混ざっていた。
「あの封印は、ただの紋様ではない。何か特別な意味があるはずだ。もしかすると、東の村の封印と関係しているかもしれない」
リリアーナは、はっとした。彼女は、手元にあった教会の封印の欠片を思い出した。それは、東の村の地図とともに見つけたものだ。
「東の村の封印……それが鍵になるかもしれません」
リリアーナは、自分の部屋に戻り、地図と欠片を広げた。彼女は、その紋様をじっくりと観察した。すると、欠片に刻まれた模様が、地図上の特定の場所を示していることに気づいた。
「この場所は……東の村の廃教会だ」
リリアーナは、そこに何か手がかりがあると直感した。彼女は、すぐにでも向かいたい衝動に駆られたが、まずは公爵に相談しようと思った。
リリアーナは公爵のもとへ向かい、東の村の廃教会に封印の手がかりがあることを伝えた。エリアスはそれを聞き、彼女に言った。
公爵は「ならば、その封印を解いてみせよ」とリリアーナに猶予を与えるが、期限は三日間と厳しい。






💬 Reader Comments
Comments are coming soon. Join the discussion about 【追放された聖女、隣国の公爵に買われる ~穢れを祓う力で、幸せな結婚生活を掴みます~】!