📖 【追放された聖女、隣国の公爵に買われる ~穢れを祓う力で、幸せな結婚生活を掴みます~】
追放と出会い・選択の代価
夜明け前の公爵邸を、リリアーナは足早に離れた。革袋には地図と封印の欠片、そして教会からの告発状が入っている。護衛の騎士が二人、彼女の後ろに続く。東の村へ向かう街道は、まだ薄暗く、冷たい風が頬を刺した。
「リリアーナ様、馬を飛ばせば昼前には着きましょう」
護衛の一人が声をかける。リリアーナは頷いたが、心は重かった。感情を解放すれば力が強まるという文献の記述。しかし、それは家族を失った悲しみと向き合うことを意味する。彼女は馬の手綱を握りしめ、決意を固めた。
「公爵閣下のためにも、必ずやり遂げる」
街道が森の中に入ったとき、リリアーナは異変に気づいた。前方の木々の間から、複数の気配がする。護衛たちも警戒し、剣の柄に手を置いた。
「止まれ!」
護衛の一人が叫ぶと、木々の陰から黒ずくめの男たちが現れた。彼らは弓を構え、狙いを定めている。リリアーナははっとした。セシリアの差し金に違いない。
「リリアーナ様、下がってください!」
護衛が前に出るが、矢が放たれた。リリアーナは馬を横に逸らし、矢をかわす。しかし、護衛の一人が肩を射抜かれ、落馬した。
「くっ!」
リリアーナは、自分が狙われていることを悟った。彼女は馬を降り、護衛の元へ駆け寄った。男たちは次々と矢を放ち、リリアーナを狙う。彼女は護衛を庇いながら、必死に避けた。
「このままでは、全滅する……」
リリアーナは、自分の力を使うべきか迷った。しかし、感情を解放すれば、力が暴走するかもしれない。それでも、彼女は決意した。
「もう、逃げない」
彼女は立ち上がり、男たちに向かって手をかざした。心の中で、家族への悲しみ、教会への怒り、公爵への感謝を解放した。すると、彼女の体が淡い光に包まれ、周囲の空気が震え始めた。
「聖女の力だと?!」
男たちが驚き、後ずさる。リリアーナは、その光を矢のように放った。光は男たちを貫き、彼らは苦しみながら倒れた。しかし、力を使いすぎたのか、リリアーナの視界が揺らぎ、意識が遠のいていく。
「リリアーナ様!」
護衛の叫び声が聞こえるが、リリアーナはその場に崩れ落ちた。
リリアーナは倒れたが、意識はまだかすかに残っていた。彼女は地面に手をつき、必死に顔を上げる。黒ずくめの男たちは、まだ数人立っている。彼らは剣を抜き、リリアーナに迫ってきた。
「聖女の力を使い果たしたようだな」
男の一人が嘲るように言う。リリアーナは歯を食いしばり、立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。彼女の手は震え、視界はぼやけていた。
「まだ……終わらない……」
リリアーナは、革袋から封印の欠片を取り出した。それは微かに光を放っている。彼女は欠片を握りしめ、祈るように呟いた。
「お願い……力を貸して」
すると、欠片が強く輝き、リリアーナの体に温かい光が流れ込んだ。彼女は再び立ち上がり、男たちに向かって手をかざした。
「浄化の光よ、彼らを包み込め!」
光が男たちを襲い、彼らは苦しみながら倒れた。しかし、リリアーナの体は限界を超えていた。彼女は膝をつき、その場に倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……」
リリアーナは息を荒げながら、地面に伏せた。彼女の意識は朦朧とし、周囲の音が遠ざかっていく。護衛の騎士が駆け寄り、彼女を抱き起こそうとするが、彼女の体は冷たくなっていた。
「リリアーナ様!しっかりしてください!」
護衛の声が聞こえるが、リリアーナの意識は闇に沈んでいった。
その時、遠くから馬蹄の音が聞こえてきた。護衛たちが顔を上げると、そこにはエリアス公爵が馬を駆ってやってくる姿があった。彼はリリアーナの姿を見るなり、顔色を変えた。
「リリアーナ!」
エリアスは馬を降り、リリアーナに駆け寄った。彼は彼女を抱きかかえ、その冷たい頬に手を当てた。
「おい、しっかりしろ!」
エリアスの声が響くが、リリアーナは反応しない。彼は彼女の体を抱きしめ、震える声で叫んだ。
「もう無理はさせるな!」
その言葉に、リリアーナのまぶたがわずかに動いた。彼女はかすかな声で呟いた。
「公爵閣下……約束を……守ります……」
エリアスは、その言葉に胸を締め付けられた。彼はリリアーナを抱きかかえたまま、馬に乗り、走り出した。護衛たちも後に続く。
「東の村まで、急ぐぞ!」
エリアスは馬を飛ばしながら、リリアーナをしっかりと抱きしめた。彼女の体はまだ冷たく、彼の腕の中で震えていた。
「リリアーナ、私がついている。決して離さない」
エリアスの声に、リリアーナは微かに微笑んだように見えた。彼女は彼の胸に顔を埋め、安心したように目を閉じた。
しかし、その時、リリアーナの体が再び光に包まれた。それは、彼女の内なる力が反応したのだ。光は徐々に強まり、彼女の傷を癒し始めた。
「これは……?」
エリアスは驚きながらも、リリアーナを抱きしめる腕を強めた。彼女の体は温かくなり、呼吸も安定してきた。
「リリアーナ、無事でいてくれ」
エリアスは祈るように呟いた。彼の心には、彼女への強い想いが芽生えていた。それは、単なる契約関係を超えたものだった。
やがて、リリアーナの意識が戻った。彼女はゆっくりと目を開け、エリアスの顔を見上げた。
「公爵閣下……私、どうして……」
「無事でよかった」
エリアスは安堵の表情を浮かべ、リリアーナの髪を撫でた。リリアーナは、その温かい手の感触に、心が満たされるのを感じた。
「約束を守ります。必ず、封印を解いてみせます」
リリアーナは、弱々しくも力強い声で言った。エリアスは頷き、彼女をさらに強く抱きしめた。
「ああ、信じている。だが、無理はするな。私も共に行く」
リリアーナは、その言葉に驚いた。しかし、エリアスの目は真剣だった。彼は、彼女を守ると決意したのだ。
「公爵閣下……」
リリアーナの目に涙が浮かんだ。彼女は、この人のために力を尽くしたいと強く思った。
馬は街道を駆け抜け、東の村へと向かう。リリアーナはエリアスの腕の中で、新たな決意を胸に抱いた。
馬が街道を駆ける中、リリアーナはエリアスの腕の中で意識を取り戻した。彼女の体はまだだるかったが、力は少しずつ回復しているのを感じた。
「公爵閣下……申し訳ありません。ご迷惑をおかけしました」
リリアーナは、かすれた声で謝罪した。エリアスは、彼女の額に手を当て、熱を確かめるように言った。
「謝ることはない。私が護衛を増やすべきだった」
エリアスの声には、後悔の色が滲んでいた。リリアーナは、彼の優しさに胸が熱くなった。
「でも、あなたが来てくださって、本当に良かった」
リリアーナの言葉に、エリアスは少し驚いた表情を浮かべた。しかし、すぐに穏やかな微笑みに変わり、彼女の髪をそっと撫でた。
「ああ、私もそう思う。君が無事で、何よりだ」
その言葉に、リリアーナの心は温かくなった。彼女は、エリアスの胸に顔を埋め、安心感に包まれた。
「公爵閣下、私は……あなたのために、力を取り戻したいです」
リリアーナは、自分の気持ちを伝えた。エリアスは、その言葉を聞き、彼女をさらに強く抱きしめた。
「リリアーナ、君はもう十分に力を発揮している。あの場で、敵を退けたのは君だ」
エリアスの言葉に、リリアーナは顔を上げた。彼の目には、誇りと信頼の色が浮かんでいた。
「でも、私はまだ……もっと強くなりたいです。あなたの役に立ちたいんです」
リリアーナの目は真剣だった。エリアスは、その強い意志を感じ取り、微笑んだ。
「ならば、共にやろう。私も、君を支える」
その言葉に、リリアーナの心は大きく動いた。彼女は、この人のために生きたいと強く思った。
「はい、公爵閣下」
リリアーナは、エリアスの胸に手を当て、誓いを立てた。彼女の体は、まだ疲れていたが、心は満ち溢れていた。
馬は東の村へと近づいていた。リリアーナは、エリアスの腕の中で、新たな決意を胸に抱いた。
「この力で、必ず封印を解いてみせます。そして、あなたの領地を救います」
リリアーナの言葉に、エリアスは優しく頷いた。彼は、彼女の力を信じていた。
「ああ、期待している」
その言葉に、リリアーナは微笑んだ。彼女の心は、希望に満ちていた。
馬が街道を駆け抜ける中、リリアーナはエリアスの腕の中で、ふと違和感を覚えた。彼女の手の中にある封印の欠片が、微かに熱を持っている。それは、東の村の廃教会に近づいている証拠だった。
「公爵閣下、この欠片が反応しています。もうすぐです」
リリアーナが言うと、エリアスは頷いた。しかし、その時、彼らの前に黒い影が立ちはだかった。
公爵がリリアーナを抱きかかえ、馬を走らせる。






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