📖 【追放された聖女、隣国の公爵に買われる ~穢れを祓う力で、幸せな結婚生活を掴みます~】
追放と出会い・決戦前夜
馬の蹄の音が、リリアーナの意識に響いていた。体は重く、まるで水底に沈んでいるようだ。まぶたを開けようとしても、光がまぶしくて目がくらむ。
「リリアーナ、しっかりしろ」
エリアスの声が聞こえる。彼の腕が、彼女をしっかりと支えていた。馬は街道を疾走し、公爵邸へと向かっている。リリアーナは、自分の体がひどく熱いことに気づいた。さっきの戦いで、力を使いすぎたのだ。
「公爵閣下……すみません……」
かすれた声で謝罪すると、エリアスは「無理をするな」と優しく言った。彼の胸に顔を埋めると、温かさと安堵が広がる。しかし、意識は再び闇に沈んでいった。
次に目を覚ましたとき、そこは見覚えのある天蓋付きのベッドだった。公爵邸の寝室だ。体はまだだるいが、熱は下がっているようだ。枕元には、エリアスが椅子に座り、うつむいていた。彼の顔には疲れの色が濃く、何日も眠っていないように見える。
「公爵閣下……」
声をかけると、エリアスははっと顔を上げた。その目には、安堵の色が浮かぶ。
「リリアーナ、目が覚めたか。良かった」
彼は立ち上がり、ベッドの縁に手をかけた。リリアーナは、自分の状態を確かめるように、手を握ったり開いたりした。力はまだ戻りきっていないが、動くことはできる。
「私は、どのくらい眠っていたのですか?」
「三日だ。医師団が君を診て、安静が必要だと言っていた」
エリアスの声は、かすかに震えていた。リリアーナは、彼が心配してくれていたのだと知り、胸が熱くなった。
そのとき、寝室のドアがノックされ、執事が入ってきた。
「公爵閣下、教会の使者が参っております。リリアーナ様の身柄引き渡しを要求しております」
エリアスの表情が、一瞬で険しくなった。
「追い返せ」
「しかし、何度も参っておりまして……」
「何度でも追い返せ。私はリリアーナを渡す気はない」
エリアスの声には、強い意志が込められていた。リリアーナは、彼が自分のために教会と対立していることを知り、申し訳なさと感謝の気持ちでいっぱいになった。
「公爵閣下、私が話をします」
リリアーナが起き上がろうとすると、エリアスは手を伸ばして止めた。
「いや、君は休んでいてくれ。私が何とかする」
しかし、リリアーナは首を振った。
「いいえ、私が行きます。私のことは私が守ります」
彼女の目は真剣だった。エリアスはため息をつき、渋々ながらも彼女を伴って応接間へ向かうことにした。
応接間には、教会の使者が立っていた。白い法衣をまとった男は、リリアーナを見ると、嫌悪の表情を浮かべた。
「お久しぶりです、リリアーナ。教会を追放された身でありながら、公爵閣下に迷惑をかけているようだな」
「私は迷惑をかけていません。私はここで、公爵閣下のために働いています」
リリアーナは毅然と言い返した。しかし、使者は鼻で笑った。
「聖女の力も失ったお前が、何ができるというのだ。素直に教会に戻り、罪を償うべきだ」
「私は戻りません」
リリアーナの言葉に、使者の顔色が変わった。
「ならば、公爵閣下にも相応の報いを受けてもらうことになる。教会は、公爵家への支援を打ち切るだろう」
エリアスは、使者の脅しに微動だにしなかった。
「支援など、必要ない。私は自分の力で領地を守る」
エリアスの言葉に、使者は悔しそうな表情を浮かべた。しかし、彼は懐から一通の書状を取り出した。
「これは、教会からの最後通告です。リリアーナを引き渡さないならば、公爵家を敵とみなすと」
リリアーナは、その書状を見て、唇を噛んだ。彼女のせいで、公爵家に迷惑がかかっている。彼女は、自分がここにいることで、エリアスに危険を及ぼしていることを痛感した。
「公爵閣下、私が……」
しかし、エリアスは彼女の言葉を遮った。
「リリアーナ、君は何も言わなくていい。私は君を守ると決めた」
エリアスは使者に向き直り、鋭い目で言い放った。
「伝えろ。私はリリアーナを渡さない。もし教会が手を出すならば、公爵家の総力をもって対抗する」
使者は、その迫力に押され、一歩後退した。しかし、彼は最後にこう言い残して去っていった。
「後悔することになるぞ」
その言葉が、部屋に重く響いた。
使者が去った後、リリアーナはエリアスの顔を見上げた。彼の目は、強い決意に満ちていた。
「公爵閣下、私のために、そこまでしていただいて……」
リリアーナの声は、涙で潤んでいた。エリアスは、彼女の肩に手を置き、優しく言った。
「君は私の妻だ。守るのは当然だ」
その言葉に、リリアーナの心は温かくなった。しかし、同時に、自分が彼に負担をかけていることを申し訳なく思った。
「でも、私はまだ、あなたの役に立てていません。封印も解けていないのに」
リリアーナはうつむいた。エリアスは、彼女の顎に手を添えて、顔を上げさせた。
「君は十分に役に立っている。あの戦いで、君は敵を退けた。それだけでも、私は君を買った価値があったと思っている」
エリアスの言葉に、リリアーナは驚いた。彼は、自分の力を評価してくれているのだ。
「でも、私はもっと強くなりたいです。あなたの領地を救うために」
リリアーナの目は、強い意志を宿していた。エリアスは、その目を見つめ、微笑んだ。
「ならば、その決意を信じよう。だが、無理はするな。私は君に長く生きてほしい」
その言葉に、リリアーナの心は大きく動いた。彼は、自分のことを大切に思ってくれている。
「はい、公爵閣下」
リリアーナは、エリアスの胸に手を当てた。彼の心臓の鼓動が、伝わってくる。彼女は、この人のために生きたいと強く思った。
そのとき、リリアーナの頭の中で、記憶の断片がよみがえった。幼い頃、森で怪我をした少年を助けた記憶。その少年の顔が、エリアスと重なる。
「あの日、森で……」
リリアーナは、思わずつぶやいた。エリアスは、その言葉に反応した。
「森? どうした?」
「いえ、何でもありません。少し、昔のことを思い出して」
リリアーナは、その記憶を確かめるように、目を閉じた。彼女は、自分の力の本質を理解し始めていた。
「私は、誰かを救うために力を授かった。その力で、あなたを救いたい」
リリアーナは、エリアスの手を握り、強く言った。
「公爵閣下、私、封印を解きます」
エリアスは、その言葉に驚いた。しかし、彼女の目は真剣だった。
「本当にできるのか?」
「はい。私の力の本質を理解しました。私は、この力で、あなたの領地を救います」
リリアーナの声には、迷いがなかった。エリアスは、彼女の決意を感じ取り、頷いた。
「分かった。だが、無理はするな。私も共にいる」
その言葉に、リリアーナは微笑んだ。彼女は、エリアスの手を握り返した。
「ありがとうございます、公爵閣下」
二人の間に、強い絆が生まれていた。
そのとき、応接間のドアが再びノックされ、執事が慌てた様子で入ってきた。
「公爵閣下、教会の使者が再び参りました。今度は、兵を連れております」
エリアスは、眉をひそめた。リリアーナは、彼の顔を見つめ、決意を新たにした。
リリアーナが宣言した直後、教会の使者が再び抗議の声を上げるが、公爵が一喝して退ける。






💬 Reader Comments
Comments are coming soon. Join the discussion about 【追放された聖女、隣国の公爵に買われる ~穢れを祓う力で、幸せな結婚生活を掴みます~】!