📖 追放された鑑定士、最強の【廃品回収】スキルでダンジョン都市を再建する
追放と再出発・心の境界線
目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。埃っぽい空気と、かすかに漂う薬草の香り。リョウタは体を起こそうとして、全身に走る痛みに顔をしかめた。
「無理をしないでください」
聞き覚えのある声に視線を向けると、エリナが心配そうに覗き込んでいた。彼女の手には濡れた布があり、どうやらリョウタの額を冷やしていたらしい。
「ここは……?」
「廃教会の地下です。あなたが倒れた後、ここに運び込みました。魔物の襲撃は、なんとか食い止められましたが……」
エリナは言葉を濁し、視線を落とした。リョウタは昨夜の記憶をたどる。北門を破られた魔物の群れ、必死に戦ったこと、そしてガルドが現れた瞬間。
「ガルドが……何か言っていたな」
リョウタが尋ねると、エリナは唇を噛みしめた。
「……ええ。彼は広場で、あなたが魔物を呼び寄せたと宣言しました。今、街は大混乱です。あなたを信じる者もいれば、ガルドの言葉を信じる者もいる」
リョウタは拳を握りしめた。冤罪。ガルドの陰謀。彼がなぜそんなことをするのか、リョウタには心当たりがあった。ダンジョン都市の衰退を隠蔽し、私腹を肥やしているガルドにとって、リョウタの存在は邪魔なのだ。
「……俺が行く」
リョウタは立ち上がろうとしたが、足元がふらついた。エリナが慌てて支える。
「まだ体が回復していません! それに、今ギルドに行けば、捕まってしまうかもしれません」
「だからこそだ。このまま黙っていれば、余計に疑われる。自分の口で説明する」
リョウタの目は真剣だった。エリナはその決意を感じ取り、ため息をついた。
「……わかりました。ですが、一人で行かせるわけにはいきません。私も同行します」
「エリナさんまで危険を冒す必要はない」
「あなたを守るためです。それに、私も黙って見ているわけにはいきません」
エリナは強い意志を宿した目でリョウタを見つめた。リョウタはしばらく彼女を見つめ返した後、小さく頷いた。
「……わかった。だが、何かあればすぐに逃げろ」
「ええ、約束します」
二人は廃教会を出て、ギルド本部へと向かった。
ギルド本部は、朝から多くの冒険者や住民でごった返していた。リョウタが姿を現すと、周囲の視線が一斉に注がれる。好奇、疑惑、敵意。様々な感情が入り混じった視線だった。
「おい、あの男が噂の……」
「魔物を呼び寄せたっていうのか?」
「でも、俺はあの人が魔物と戦っているのを見たぞ」
ざわめきが広がる中、リョウタはまっすぐにギルドの受付へと向かった。エリナはその後ろを固い表情でついてくる。
「ギルド長に会わせてくれ」
リョウタが受付嬢に告げると、彼女は気まずそうに目をそらした。
「申し訳ありませんが、ギルド長はお忙しいようで……」
「ならば、ここで待つ。いつでもいい」
リョウタが一歩も引かない構えを見せると、受付嬢は困ったように奥へ引っ込んでいった。しばらくして、重厚な扉が開き、ガルドが姿を現した。
「おや、リョウタ君。無事だったか。心配していたんだよ」
ガルドはにこやかな笑みを浮かべているが、その目は笑っていなかった。リョウタは警戒を緩めずに切り出した。
「ガルドさん、昨夜の件について話をさせてください。俺は魔物を呼び寄せてなんかいない」
「ほう? では、なぜあの時間に北門の近くにいたのかな?」
「それは、エリナさんとダンジョンの調査をしていたからだ」
リョウタが説明を試みるが、ガルドは首を振った。
「調査? 夜中に? それは怪しいな。しかも、君のスキルで作ったという盾が、現場に残されていたそうだ。魔物を誘き寄せるための罠だったのではないか?」
ガルドが手を挙げると、係員がリョウタの即席の盾を持ってきた。確かに、それはリョウタが作ったものだった。
「これは魔物と戦うために作ったものです!」
「証拠は? 君の言葉だけでは信じられないな」
ガルドは勝ち誇ったように笑った。周囲の冒険者たちも、リョウタに疑いの目を向け始める。
「君には、しばらく謹慎してもらう。場合によっては、冒険者資格の剥奪も検討しなければならないな」
「そんな!」
リョウタが抗議しようとしたその時、エリナが一歩前に出た。
「お待ちください、ギルド長」
「エリナ嬢? 何か?」
「私は昨夜、リョウタさんが魔物と戦っているのをこの目で見ました。彼は住民を守るために、廃材を武器に変えて戦っていたのです。証人なら、私がいます」
エリナの言葉に、ガルドは眉をひそめた。
「エリナ嬢、あなたは彼と行動を共にしていた。証言の信憑性は低い」
「では、他の住民はどうですか? 彼らもリョウタさんの活躍を見ていたはずです」
エリナは懐から数枚の紙を取り出した。そこには、住民たちの署名と証言が記されていた。
「昨夜、避難した住民たちに話を聞きました。彼らは皆、リョウタさんが魔物を食い止めてくれたと証言しています」
ガルドの顔色が変わった。彼は証言書を一瞥し、苦々しい表情を浮かべた。
「……ふん。まあ、今回は見逃してやろう。だが、まだ疑いは晴れていない。今後の行動には気をつけることだ」
ガルドはそう言い残すと、奥へと戻っていった。リョウタはほっと胸をなで下ろしたが、エリナの顔は晴れなかった。
「ありがとう、エリナさん。助かった」
「いいえ。でも、これでガルドさんが黙っているとは思えません。何か企んでいるはずです」
エリナの言葉に、リョウタは頷いた。彼も同じことを考えていた。
ギルドを出た二人は、人気のない路地へと足を進めた。リョウタはエリナに向き直り、深々と頭を下げた。
「本当にありがとう。エリナさんがいなければ、俺は今頃捕まっていたかもしれない」
「お礼を言われるようなことはしていません。リョウタさんが正しいことをしただけです」
エリナはそう言ったが、その顔には疲労の色が濃く出ていた。リョウタは彼女がどれだけの労力を費やして証言を集めたのか、想像に難くなかった。
「それにしても、よく住民たちが証言してくれたな。俺なんかのために」
「リョウタさんは、彼らを救ったんですよ。皆、感謝しています。ただ、ガルドさんの権力が怖くて、表立っては言えないだけです」
エリナの言葉に、リョウタは胸の内で怒りが沸き上がるのを感じた。ガルドの横暴が、街の人々を怯えさせている。
「……ガルドを何とかしないとな」
「ええ。でも、どうやって? 彼はギルド長です。権力もあり、証拠も握っています」
「ダンジョンに何かあるかもしれない。あの日記に書いてあった、ダンジョンコアの修復。それに関係しているのかも」
リョウタは古い日記のことを思い出した。そこには、ダンジョンの深部に何かが隠されていると記されていた。
「深部か……危険ですが、行く価値はありそうです」
「ああ。だが、その前に、ガルドの妨害をかわさないとな」
二人はしばらく黙って歩いた。すると、エリナがふと足を止めた。
「リョウタさん、一つ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「なぜ、そこまでするんですか? 追放されたのに、街のために戦う理由は?」
リョウタは一瞬驚いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「この街は、俺の故郷だからな。両親が死んだ時、たくさんの人に助けられた。今度は俺が助ける番だ」
エリナはその言葉を聞き、何かを感じ取ったように目を細めた。
「……そうですか。あなたは強いんですね」
「強いんじゃない。やるべきことをやってるだけだ」
リョウタはそう言って、再び歩き出した。エリナはその後ろ姿を、少しだけ長く見つめていた。
「……私も、あなたの力になれますか?」
「もちろん。エリナさんの設計の知識は、これから絶対に必要になる」
「ありがとうございます。頑張ります」
エリナの表情が、少しだけ明るくなった。二人の間に、確かな信頼が生まれつつあった。
その時、路地の影からガルドが現れた。彼は二人の前に立ちはだかり、冷たい笑みを浮かべている。
「ほう、いいところで会ったな」
ガルドはリョウタを見据え、低い声で言った。
「リョウタ君、君に一つ頼みがある」
ガルドが「次は容赦しない」と脅し、リョウタにダンジョン最深部の封印を解く鍵を要求する。






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